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シュルンベルジェ社のERP導入の成功事例について

2019.07.30

2019年6月

(翻訳:和田 圭介、梅澤 友紀)
原文:https://www.scruminc.com/successful-erp-implementation-case-study/

ERP(統合基幹業務システム)ソフトウェアはビジネスの成功の重要な要素となります。しかし、これらの複雑なシステムをカスタマイズして導入するのは難しく、コストも多くかかります。
この事例では、シュルンベルジェ社がScrum Inc.と提携してどのようにして大規模なERP導入を成功させたかを検証していきます。

野心的なゴール

エリック・アベカシス氏が2017年にシュルンベルジェ社のCIOになった際、自分のキャリアの分かれ道となる課題に直面しました。同社は会社の将来に影響を与えるであろうプロジェクト、つまり最終的にはグローバル組織全体に広がるERPシステムにすでにかなりの投資をしていました。そして、莫大な資金を投じたにも関わらず、プロジェクトは大きな課題に直面していました。

同社は既にERPを導入する通常の方法を試しており、アベカシス氏が言うには「シュルンベルジェ社はコンサルタントを雇ったり、ワークショップを開催したり、残業をしたりと色々なことをした」そうですが、全ての部門で70%のレガシーシステムを入れ替えるという目標を達成できていませんでした。

アベカシス氏の昇進前、ERPに従事している従業員と契約社員は600人から1300人に急増しました。それは彼の目を引きました。

「私達が使っていた生産性の尺度はSAPの世界でよく用いられるデリバリーの単位、WRICEFでした。私達は600人で月に60のWRICEFをデリバリー出来ていましたが、1300人になってもまだWRICEFのデリバリーは60のままでした。」

彼はもっと抜本的な何かをすべき時が来たと決心しました。アベカシス氏はシュルンベルジェ社の経営陣に「スクラムの試験的な導入は2・3ヶ月で結果がわかります。しかし、もし成功すれば、効率性の面で大きな突破口となるでしょう」と伝えました。スクラムは会社のやり方を根本から覆す可能性があります。そしてそれは、情報システム部門を含む間接部門だけの変化にとどまりません。

巨大組織を統一する

120カ国以上に製品とサービスを提供し、約100,000人の従業員がいるシュルンベルジェ社は世界最大の石油およびガスのサービス・プロバイダーです。

しかし、会社の規模以外にも、ERP導入を複雑化する要因が存在しました。

研究・開発に多くの時間や資金を費やすとともに、シュルンベルジェ社は20世紀を通して成長のカギとして買収を利用しました。しかし買収した会社のITビジネスシステムを統合することは簡単なことではありません。最終的に、シュルンベルジェ社は全体でおよそ150のレガシーシステムを持つようになりました。これら全てのシステムとデータを新たなERPに取り込む必要があります。
そして、導入のスコープとして、シュルンベルジェ社は組織のあらゆるところに影響を与えるシステム導入を望んでいました。この想いは以下の通りERPの導入を発表した同社の2015年のインタラクティブ年次レポートに最も分かりやすく述べられています。

ITはプロセスの可視化を実現し、統合基幹業務システム(ERP)と呼ばれる統合ソリューションを導入することが出来るエンジンです。ビジネスの世界では、およそ25年前からITシステムの集中化が始まりました。多くの会社がそのアプローチにしたがって、まず最初に、ファイナンスやサプライチェーンといったばらばらな機能をアップデートし、その後、それらの機能を新しいIT環境へと統合しました。しかし、シュルンベルジェは、(システムの機能ではなく)ビジネス側の要求に沿って、より統合されたソリューションを生み出すことで、異なるアプローチをとっています。

シュルンベルジェ社とScrum Inc.のパートナーシップは、これらの複雑な要因を克服し、同時に、生産性の向上とコストの削減を実現しました。

ERPソリューションをスクラムする

シュルンベルジェ社のリーダーシップは、変革の強力な推進役となりました。彼らは、Scrum Inc.のコンサルタントとトレーナーに、まずは、IT部門のリーダーシップ向けのワークショップの開催を依頼しました。リーダーシップ向けのワークショップを通じた公正な現状評価により、IT部門のリーダーシップは、スクラムフレームワークの実践が何を意味し、また、スクラムがどのようにビジネスアジリティを実現し、プロジェクトを成功に導き、そして、生産性を大幅に向上するかを理解しました。

まず、IT部門のリーダーシップが全体のバックログを作り、それから、Scrum Inc.のコンサルタントが、シュルンベルジェチームに対しスクラムの技術と実践のコーチングとトレーニングを開始しました。

Scrum Inc.のコンサルタントは、シュルンベルジェ社のメンバーが、プロダクトバックを作り、各スプリントにおいてテスト、デリバリーの繰り返しができるよう、複雑なプロジェクトを小さな仕事に分割することでバックログをリファイン(1スプリントで実行可能な大きさにする)することを支援しました。

チームへ権限が移譲され、仕事が見える化され、チームはより職能横断となり、チーム間の依存性が見つけやすくなりました。そして可能な限り、これらの依存性は、解消されました。

「それは、非常に早く、インパクトのある変化でした」とシュルンベルジェ社のIT部門のアーキテクチャーとガバナンスにおけるVP、ジム・ブレイディ氏は振り返ります。「最初、生産性は少し下がりました。最初の数スプリント、チームの働き方はぎこちないものでした。しかし、初期の非効率な期間を考慮しても、5ヶ月以内にSAPプログラム全体で25%生産性を向上し、契約社員の人数を40%まで減らすことができました。」

例えば、あるチームでは、スケジュールを1週間前倒しで、新しいERPへデータをデリバリーし、要求の70%を大きく上回る93%のデータ準備を実現しました。

一連の変革を通じて、あるシュルンベルジェ社の契約社員は、当初、スクラムに懐疑的でしたが、最終的には、スクラムがERPプロジェクトにおける生産性を10倍以上向上させたと主張するようになりました。では一体どうやって、生産性を10倍以上も向上することができたのでしょうか?

スクラムを実践する前、チームには、ERPプロジェクトのあるピースがデリバリーされてから、テストと承認が完了するまでの、契約社員が「余白」と呼ぶ、重大な中断期間がありました。しかし、今ではこの「余白」はほぼ消滅しました。「なぜなら私たちは、スプリントのサイクルのなかで、要求に基づくデリバリー、テスト、承認をすべてこなすようになったからです。」

ERPの開発にスクラムを使い始めてから1年後、シュルンベルジェのCIO、エリック・アベカシス氏は、シュルンベルジェ社が成し遂げたことに関して、いくつかのデータポイントの観点から語りました。「生産性に関しては、25%の向上が見られました。一方で、巨大なプログラム全体で25%のコスト削減を実現しました。」アベカシス氏は、品質に関しても、顕著な改善にもつながったと付け加えました。

アベカシス氏は、これらの結果は始まりに過ぎず、「私たちは限界に挑み続け、30-40%のコスト削減と生産性の向上を実現できると考えています。」と言います。

シュルンベルジェ社は、会社の最大の市場、北米において、2019年4月1日に、無事ERPをリリースしました。

スクラムが用いられるようになったおかげで、異なる地理における開発もより早く、より安価にできるようになると、シュルンベルジェ社のリーダーシップは信じています。「グローバルな開発における私のゴールは、ガントチャートとスプレッドシートを無くし、すべての開発にスクラムのコンテキストを適用することです。」「Scrum@Scrumのメカニズムを含む、スクラムをベースにした抜本的なアプローチは、本部からの適切なコントロールを保ちながら、各国における抜本的な自律を実現します。」とVPのジム・ブレイディ氏は言います。さらにブレイディ氏は「このことは我々の開発におけるスピードアップと純利益の増大を実現する」と信じています。
しかしながら、サクセスストーリーはこれだけでは終わりませんでした。

シュルンベルジェ社におけるスクラムの広がり

CIOのアベカシス氏は言います。「Scrum Inc.は私たちの予想を超えて、シュルンベルジェに様々な意味で利益をもたらしました。そして非常に素早く、私たちの望みは現実となり、シュルンベルジェの他のITチームもスクラムによる変革を始めました。」

いくつかの追加のプロジェクトがスクラムを使い始めましたが、なかでも一つのチームは、アベカシス氏にとって、際立った存在でした。

この新規計画において、会社はすでにプロジェクトへリソースを投資していましたが、満足な結果は得られていませんでした。そこでシュルンベルジュ社のITのリーダーシップはプロジェクトチームに次のように伝えました。「もう心配することはありません。すでに解決策はあります。スクラムでいきましょう。」

80人のチームの代わりに、15人だけが必要となりました。予算は、最初の要求の5分の1で済みました。アベカシス氏によると、10ヶ月後、この新規計画に従事する人々は、誇り高く次のように言ったそうです。「私たちは、より多くの人と予算を持っていた時に期待されていたよりも多くのことを成し遂げました。」

スクラムとシュルンベルジェ社: 長く続くインパクト

スクラムジャーニーと呼ぶべき一年が経過し、エリック・アベカシス氏は、スクラムフレームワークがシュルンベルジェ社全体に浸透したと言います。

そして、エリック・アベカシス氏は、力強く言います。「私の新しいミッションは、今やシュルンベルジェのビジネスをドライブする手法となったスクラムの原則に基づく、”チームのネットワーク組織”という考え方を浸透させることです。」そして、さらにこう続けました「それが私のビジョン、望み、そして、今まさに取り組んでいることなのです。」と。