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スウォーミング:スクラムチームの生産性を一気に高める方法

2024.07.08

by Jeff Sutherland, Scrum Inc. Team | January 22, 2020 | Blog(翻訳:荒本 実)

スウォーミングはシンプルだが見落とされがちな、スクラムチームのベロシティを一気に高める方法である。 これは、業界に関わらず生産性の高いチームで一貫して使われているパターンである。

実際、スウォーミングはとても簡単に実践できるので、アジャイルに慣れていないチームでもすぐに使い始めることができる。 この投稿では、スウォーミングがどのように、そしてなぜ機能するのかを探り、すぐに劇的な結果をもたらした医療現場での実際の適用例を紹介する。

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スクラムにおけるスウォーミングの定義とは何か? 

スウォーミングは、できるだけ多くのチームメンバーが同じ優先度のアイテムに同時に取り組むときに発生する。 そして、そのアイテムが完了するまで、そのアイテムだけに取り組む。

スウォーミングの仕組み

チームが群がるときは、最優先のアイテムに群がるべきだが、これは想像以上に難しい。

すべてのスプリントバックログは、重要度の異なる項目で構成されている。 これらはすべてスプリント終了までに完了させる必要があるが、チームの最優先事項となり得るのは、これらの項目のうち1つだけである。

スクラムの共同考案者であり、Scrum Inc.の創設者であるジェフ・サザーランド博士は次のように指摘する。

「今日、多くの組織では、個人、チーム、さらには組織自体が、すべてを最優先とする多くのプロジェクトに取り組んでいる。」

これが大規模な機能不全を引き起こし、チームと組織のスピードを落とすことになる。 だから、フラストレーションを減らし、幸福感を高め、チームの効率を上げるには、次のことが必要である。

「最も重要なストーリーに集中する」

つまり、スウォーミングの第1ステップは、バックログの最優先項目が本当は何であるのかをチームに認識させることである。

第2ステップは、その優先項目に取り組む可能性のあるチームメンバーを全員集めることである。 チーム全員がその項目に取り組むことはできないかもしれない。目標はできるだけ多くの人を集めることである。 

第3ステップは、真に共有された同時進行の方法で仕事に取りかかることである。 これが何を意味するかは、当然ながら作業内容によって異なる。 しかし目標は変わらない。できるだけ多くのチームメンバーが同時にその項目に取り組むことである。

それが完了するとチームは次のアイテムに取りかかる。それについても完了するまで群がる(スウォームする)。 その繰り返しである。

これをスプリントで試してみると、その結果に驚くかもしれない。 スクラムチームは、短時間でベロシティが大幅に向上することがよくある。 私たちは、200%ものジャンプを見たことさえある。

それでもスウォーミングは直感に反するように聞こえるかもしれない。 多くのスクラムチームは、個々のメンバーが同時に異なるアイテムに取り組むために、バックログを分割して征服しようとしている。同時に仕事が行われるのだから、より多くの仕事をこなせる、という考え方もある。 しかし実際はそうではない。

ジェフ・サザーランド博士が説明するように、「チームが遅れたり、スプリントの終わりにすべてを完了できない最も一般的な原因は、全員が自分のことに取り組んでいることだ。 すべてが仕掛かり中で、何も完成していない。」の状態となる。

これは、スプリントの最後にボトルネックを作ることでチームの速度を低下させるとジェフ博士は説明する。「すべてを一度にテストしなければならないが、それをする時間が足りず、スプリントは失敗する。」

スウォーミングが機能する理由

私たち人種は気晴らしが大好きだ。 メール、チャット、電話、何であれ、私たちはしばしば集中力を削がれる。 こうした注意散漫には代償が伴う。

一つのことから次のことに集中を切り替えるたびに、生産性のかなりの割合が失われる。 それは、精神的にリセットして立ち直ったり、別のシステムを使ったり、別の場所に移動したりしなければならないからだ。 どのような理由であれ、あなたやあなたのチームがマルチタスクの誤りに陥れば、生産性は低下する。

コンテキスト・スイッチング」と呼ばれるこの概念は、ジェラルド・ワインバーグがその代表的な著書『Quality Software Management』の中で初めて示したものであり、それが真実であることは何度も証明されている。

ワインバーグは、もしひとつのことに最後まで取り組むなら、その人は100%の集中力と時間をその仕事に費やすだろう。 しかし、たった一度でもコンテキスト・スイッチをしなければならないとしたら、仕事に使える時間は80%に減ってしまう、と説明する。

1日に3回、コンテキスト・スイッチをしなければならない場合、有効な時間はわずか60%にまで落ち込む。 5回スイッチをすれば25%まで落ち込む。すなわち75%の時間と集中力がコンテキスト・スイッチによって失われてしまう。

スウォーミングは、チーム全体がスプリントで優先される1つのバックログアイテムに集中し続けることで、コンテキストの切り替えを減らす。 そのため、メンタルリセットや再起動、コンテキストの切り替えのロスがまったくない。

スウォーミングはまた、プロセス効率として知られる重要な指標を改善することで、スクラムチームの生産性を高める。プロセス効率は、バックログアイテムを完了するための実際の作業時間を、完了するまでにかかるカレンダー時間で割った値である。

典型的なスクラムチームの平均的なプロセス効率は5%から10%である。 これは低く聞こえるが、非アジャイルチームよりも高い。

ジェフ博士は次のように説明する。 「理想日で1日の作業で完了するものがあったとして、データを見て、完了するまでに10日かかっていたとする。 つまり、1日の作業に10暦日かかっていることになる。この場合のプロセス効率は10%である。」

スウォーミングがゲームを変える

「そのストーリーを3人のチームメンバーで担当し、全員が協力して1日で完了させたらどうなるでしょう? プロセスの効率は100%になり、自動的にベロシティが向上する。」

スクラムチームのベロシティは、プロセス効率を20〜50%改善することで倍増するというデータがある。  

もう一つ、スウォーミングがベロシティーを向上させる方法として取り上げるべき価値がある。 スウォーミングは無駄を削減する。

トヨタ生産方式の創始者である大野耐一氏が「ムダ」と呼んでいるものであるが、時間、資金、資源、労力を費やしたにもかかわらず、仕事が未完成であるために何も見返りがない、これが最悪の無駄であると考えた。

スウォーミングは、このような無駄を解決するために、できるだけ多くのチームメンバーがその優先項目を完了するまで作業する。 そしてどのような状況においても、未完成よりも完成の方が常に良いことである。

アジャイル・スウォーミング パターンの一例: 病院での例

実際の仕事におけるスウォーミングの例を紹介したい。 そのために、Scrum Inc. CEOであるJJ SutherlandによるThe Scrum Fieldbook の一節を紹介する。

「Howを革新する」と題されたセクションで、Scrum Inc.コンサルタントがある病院と提携して、何十年にわたり病院を悩ませてきた手術室の消毒と次の手術のためのセットアップにかかる時間を短縮する、という問題を解決した話を紹介している。 品質を落とすことなく、人命を危険にさらすことなくである。

手術が終わり担架で患者を送り出し、次の手術の患者を迎えるまでを “ホイールアウト “から “ホイールイン “の時間として知られている。 清掃員はこの仕事に約1時間かかっていた。「これは簡単な仕事ではないのです。部屋を消毒するだけではないのです。 適切な手術器具を適切な場所に配置するために、次の医療チーム、外科医、麻酔科医、看護師との連携が必要なのです。」

スウォーミングは重要なプロセス改善だった。 そして、清掃員たちが自分たちで考え出したことでもある。

彼らは、これまでと同じ手術器具を配置する作業を、外科医、麻酔科医、看護師と共同で一緒にやれば早く終わることに気づいた。 その協力作業を繰り返せば、部屋の掃除にかかる総時間は大幅に短縮される。2日間、彼らはこの実験を試したが、何回も短縮することができた。その他のプロセス改善も同様に、スウォーミングと並行して行われた。

結果は明らかだった。ホイールアウトからホイールインまでの時間が半分に短縮された。平均約1時間から30分、時にはそれ以下になった。 すべて、品質を犠牲にすることなくである。

こうした改善は現在も続いている。 この病院がより多くの命を救い、より多くの人々を治療することが可能になった。技術を変えるのでも、スタッフを増やすのでもない。 そして、何十年も続いてきたホイールアウトからホイールインへの問題は、たった2週間で半分になった。

すべてはスウォーミングの助けによって。

アジャイルチームのスウォーミングの追加的な利点

スウォーミングは本当にアジャイルとスクラムチームの秘密兵器だ。 これは上に説明した理由だけではない。

スウォーミングはまた、チームメンバー間で学びを自由に共有することを可能にする。 個人がスキルセットを学んだり、向上させたりすることができる。 これはスウォーミングの主な焦点ではないが、追加の利点として大きな価値がある。

ジェフ博士は何百もの組織、何千ものチームと仕事をしてきたが、次のように言う。「一貫してスウォーミングのパターンを使っていない、パフォーマンスの高いスクラムチームを見たことがない。」