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アジャイル マニフェストはいかにして生まれたか

2024.07.01

by Jeff Sutherland | February 11, 2021 | Blog(翻訳:荒本 実)

How The Agile Manifesto Came To Be With Dr. Jeff Sutherland

20年前、私はユタ州スノーバードに行き、同じ目標を持つ16人の仲間と合流しました。 それは、私たちの業界、つまりソフトウェア開発のやり方をより良い方向に変えることでした。顧客を第一に考え、よりスマートに働き、より速く、より頻繁に、より良い成果を出すことでした。

その会議で、私たちはアジャイル マニフェストとしてよく知られている4つの価値と12の原則を作成しました。 私は、多くの変革に貢献したこの文書の 17 人の署名者の 1 人であることを誇りに思っています。

アジャイル 20 周年を記念して、アジャイル マニフェストがどのようにして生まれたのかをお話ししたいと思います (こちらのビデオもご覧ください YouTube channel)。まずは、その場にいたすべての方々に感謝の意を表したいと思います。また、アジャイル・プロセスを導入している皆さんにも感謝したい。 素晴らしいアイディアを世界的な変革へと導いてくれたことに感謝します。

私たちはこれまで多くのことを成し遂げてきましたが、まだまだやるべきことはたくさんあります。 アジャイルの20年を祝い、今よりもさらにアジャイルな未来に進みましょう。

私たちを結びつけたもの

当時、ソフトウェア開発の進め方には多くの懸念がありました。 それは主にラショナル・ユニファイド・プロセス(Rational Unified Process)を使って行われていましたが、非常に重量になっていて、まったくアジャイルではありませんでした。アジャイル マニフェストの会議に参加した多くは、インターネット ニュースグループで積極的に活動し、アジャイルプロセスの先駆けとも言えるものを作成していました。私たちは、より優れた代替案を作ろうとしていました。

そして2001年、オブジェクト指向技術のコンサルティング会社を経営していたボブ・マーティンが、私たち全員に「一緒に集まろう」と電話をかけてきました。 

アジャイルコミュニティの多くの人から「Uncle Bob(ボブおじさん)」として知られている彼は、アジャイル・マニフェストの会議の議長でした。

しかし、なぜ私たちはスノーバードに集まったのでしょうか? アジャイル マニフェストの署名者であるアリスター・コーバーンとジム・ハイスミスは、当時ユタに住んでいました。

ジムは適応型ソフトウェア開発に関する本を書いたばかりで、アリスターはCrystal(クリスタル)と呼ばれるフレームワークに関する本を何冊か書いていました。

私たち17人全員が業界のオピニオンリーダーでした。私たちは、誰も好まない重いソフトウェア開発プロセスという形で競争上の脅威に直面していました。それが、全員が団結する原動力となりました。もっと良い方法があるはずだと私たちは分かっていました。

なぜアジャイルと呼ばれるのか?

会議の初日には、各自が自分のアイデアや取り組んでいることについて話す機会がありました。 当時、私たちは『軽量プロセス』という言葉を使っていましたが、もっと適切な言葉が必要だと思っていました。

これをアジャイルと呼ぼうと言ったのはマイク・ビードルのアイデアでした。

彼は、リーン生産方式を次のレベルに引き上げる方法を考えるためにコンソーシアムを結成したハードウェア企業についての本(訳者追記:『アジャイルな競争相手とバーチャルな組織 – 顧客を豊かにする戦略』)に触発されました。リーン生産方式は効率性には優れていますが、顧客との繋がりや顧客の関心を引くことにはあまり向いていません。そこでコンソーシアムでは、リーンを次のレベルに引き上げる方法を考え出そうとしました(私は今でもこの本を本棚に飾ってあります)。

初日の終わりには、フリップチャートに名前の候補が並んでいました。私たちはアジャイルという言葉を選びました。 これはマイク・ビードルのおかげで、重要な決定でした。

アジャイルの4つの価値の創造

Picture showing the creation of the four values of the Agile Manifesto

2日目の朝10時半頃、私たちはコーヒーブレイクをとることにしました。 冬のシーズンでユタ州にいたので、集まった17人のうち9人はちょっとスキーに行くことにし、部屋に残ったのは、アジャイル マニフェストのウェブサイトの写真に写っている8人でした。

マーティン・ファウラーはソフトウェア開発に関する多くの著書を持ち、最初のエクストリーム・プログラミング(XP)チームの一員でした。彼はホワイトボードに向かって、私たちが数日間一緒に過ごして、アジャイルという名前以外に何も合意できないのではないかと言いました。

「他に合意できることはないのか」と彼は尋ねました。 誰かが、”素晴らしいチームが素晴らしいソフトウェアを作るということは知っている。 そして、”すべては個人と、彼らがどのように協力し合うかだ “と付け加えました。

そこでマーティンは、「個人と対話」をホワイトボードに書き込みました。

その場には開発ツールの販売会社で働いている2人がいて、『プロセスやツールはどうなんだ』と質問しました。

他の人たちは、「それらは通常スピードを遅くするが、禁止したくはない、と言いました。」

マーティンはまだホワイトボードに向かっていたが、文章を完成させた。 「私たちはプロセスやツールよりも個人と対話を価値とする。」 最初のアジャイルの価値でした。

そして、オリジナルのXPチームに所属していたロン・ジェフリーズは、「私たちは、動作するソフトウェアを早期に定期的に提供することを重視している。 それが最も重要なことだ。ドキュメントよりもずっと重要なことだ。」

しかし、中には、何らかのドキュメントは常に必要だと指摘する人がいました。

そこでマーティンは、私たちは包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを価値とすると書いた。  第2のアジャイルの価値が誕生しました。

このコーヒーブレイクの時間は15分ほどしかなく、その後の5分間は顧客についての話に費やされました。というのも、私は世界最大級のヘルスケア・ソフトウェア会社で4年間CTOを務めた直後でした。私たちは常に契約をめぐって争っていて、契約がプロジェクト失敗の根本原因になることも多々ありました。 明らかに、顧客を巻き込んで協力してもらうことが成功の鍵でした。

かなりの議論の末、私たち全員が、契約交渉よりも顧客との協調を価値とすることに合意しました。 第3のアジャイルの価値です。

最後に、XP関係者の一人が、これはXPの信条でもあるが「私たちは、計画に従うことよりも変化に対応することを価値とする」と言った。 第4のアジャイルの価値です。

コーヒーブレイクが終わり 他のメンバーが戻ってきました。 私たちは皆、ホワイトボードを見つめていました。その後、ウォード・カニンガム(Wikiや多くのソフトウェアツールの開発者)が、「最高だ!」と言いました。誰も言葉を変えませんでした。 一言もです。これは15分で書いたものです。

今となっては、私たちは皆さんにこのように話します。「半ページのメモを瓶に入れて海に捨てたようなものだ。みんなが読んでくれた。 私たちがやった仕事が今や世界的な現象になっているのを見るのは驚くべきことだ。」

しかし、私たちはまだ始まったばかりでした。

12のアジャイル原則の作成

その日の午後、私たちは再び集まりました。アジャイルの価値に対して肉付けする必要があると分かっていたからです。そこで、私たちは12のアジャイルの原則を作るのに数時間を費やしました。これらは4つの価値を補足し、明確にするものです。

当時も今も、訪れる会社のほとんどでは、何をすべきか、何を優先すべきか、誰が何をすべきか、何に予算を提供すべきかについて、多くの議論を耳にするでしょう。多くの場合、顧客についてはほとんど議論されません。 顧客は後回しにされるのです。そこで、私たちがやりたかったことのひとつは、顧客を最優先にすることです。結局のところ、顧客を満足させないものは時間の無駄であり、何の付加価値も生まないからです。

もうひとつ私たちが焦点を当てたことは、漸進的(インクリメンタル)かつ迅速なデリバリーの重要性です。製品を世に送り出し、非常に迅速に反復する必要があります。 それが今も昔も変わらぬ成功の鍵です。もちろん、これがアジャイル マニフェストの2番目の価値です。

アジャイル マニフェストの10周年に、私たちは同窓会を開き、何を変えるかと聞かれました。ロン・ジェフリーズは、マニフェストの一番下に 「ソフトウェアの早く、インクリメンタルなデリバリー。私たちは本当にそう考えている。」というメモを書き加えるだけだと言った。

これがアジャイルの核心です。  

アジャイルの未来

Agile development methodology concept on virtual screen. Technology concept.

アジャイルはソフトウェアの領域をはるかに超えています。 Scrum Inc.では、アジャイル マニフェストの4つの価値を議論するとき、ソフトウェアではなくプロダクトという言葉に置き換えます。私たちのビジネスのほとんどは、ソフトウェア開発以外の業界にあります。他の類似の組織でも同じことが言えます。

アジャイルとスクラムの活用は増え続けていますが、もっとできることがあります。 私は最終的にはすべての組織がアジャイルになると確信しています。誰もがアジャイルである必要がありますが、最もアジャイルな組織が最も成功するでしょう。

アジャイル マニフェストに示された4つの価値と12の原則を取り入れた、より迅速で革新的な組織が存続し、繁栄するでしょう。だからこそ私はマニフェストだけでなく、それを一緒に作り上げた人々の重要性を認めたいと思います。

そこにいたすべての人が独自の貢献をしました。私たちは年月を経て穏やかになったと思いますが、当時は何一つ意見が一致しませんでした。アジャイル マニフェストを構成する4つの価値と12の原則を除いては。

それらに合意するのに多くの労力を費やしました。しかし努力する価値は十分にありました。そして 20 年経った今でも、当時と同じくらい価値のあるものとなっています。