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エクストリームアジャイル:AIを活用し、Scrum@Scaleをネクストレベルへ

2024.10.25

2024年10月3日・4日、ボストンに世界中のRegistered Scrum Trainer(Scrum Inc.認定スクラムトレーナー)が集まり、スクラムの実践者としての新たな学びを共有し、今後のアジャイル・スクラムがどのようであるべきかを議論しました。日本からはScrum Inc. Japanの和田圭介と内山遼子が参加しました。

イベントの中で、スクラムの共同考案者、そしてScrum@Scaleの考案者である、ジェフ・サザーランド博士から、「エクストリームアジャイル:AIを活用し、Scrum@Scaleをネクストレベルへ」というタイトルの基調講演がありました。AIの時代において、スクラムやScrum@Scaleを実践する私たちがどうあるべきか、博士から重要な提言がありましたので、日本のスクラム実践者に共有したいと思います。

以下、ジェフ・サザーランド博士による基調講演を抜粋してお届けします。

まず始めに、スクラムおよびScrum@Scaleは今のAIの発展に大きな影響を与えた複雑適応システム(Complex Adaptive Systems:CAS)理論を基礎としていることを話したいと思います。

複雑適応システム(CAS)理論とは、構成要素が互いに相互作用しあう複雑な環境においては、外部の変化に適応して自己組織化するシステムだけが、環境からのフィードバックからパターンを学習し、発展し続けることができるという考えであり、スクラムチームのパフォーマンスの向上やAIの飛躍的な進化の論理的な背景となっています。

そして、AIが飛躍的に進歩する現状において、今後、AIをスクラムチームの一員として迎え入れ、チームの自己組織化のプロセスや複雑な状況下での意思決定をAIに支援してもらうことが、スクラムチームおよびScrum@Scale組織の適応力と生産性を飛躍的に向上する鍵となります 。私は、AIの活用により、スクラムおよびScrum@Scaleがネクストレベルへと引き上げられた状態をエクストリームアジャイル(アジャイルの究極の状態)と呼びたいと思います。

では、私たちスクラムの実践者は、実際どのようにAIをチームや組織に導入し、エクストリームアジャイルを目指せばよいのでしょうか?

それには、エクストリームアジャイルを実現する、アジャイルテクノロジースタックの理解と実践が重要となります。アジャイルテクノロジースタックは、コンピュータの通信機能を7つのレイヤーに分割して説明する、OSI参照モデルを参考に、私が新たに定義しました。
アジャイルテクノロジースタックは8つのレイヤーにより構成され、OSI参照モデル同様、下位のレイヤーと上位のレイヤーは依存関係があり、全てのレイヤーを組織に実装する必要があります。

最初のレイヤーは物理学レイヤーです。

企業の経営層は、我々の世界はシンプルなルールに則っているものの、その結果を予測することはできないという、ウルフラムの物理学の法則を理解し、変化の激しい時代では従来型の計画主導のアプローチは役に立たず、検査と適用のくりかえしによる経験主義のアプローチを組織全体で導入する必要性があることを理解する必要があります。

次のレイヤーは生物学レイヤーです。

本当に素晴らしいチームおよび組織をつくるためには、メンバー一人ひとりが肉体的に健康である必要があります。チームは持続可能なペースをまもり、ストレスを最小限にして、エネルギーをしっかりと管理する必要があります。

その次のレイヤーは、神経科学レイヤーです。つまり、脳内の話です。

スクラムマスターは、チームが継続的な改善を通じて、自分たちがよくなっていると感じ、プロダクトに対する顧客からのフィードバックを得て、チームのモチベーションを引き出す「場」を作る必要があります。モチベーションを得たチームが、さらにプロセスやプロダクトをよくするというサイクルを軌道に乗せることができれば、チームはより効果的に、より幸福になれます。幸福なチームはより広い視野を得て、より多くのことを成し遂げ、情熱を持ち続けることができます。

偉大なスポーツチームや偉大なアスリートが常に勝利するのは、こうしたサイクルを実践しているからです。同じサイクルをスクラムマスターはスクラムチームにおいて実現する必要があります。

次のレイヤーは最初に話した、複雑適応システム(CAS)レイヤーです。

複雑適応システム(CAS)理論によりチームと組織を飛躍的に成長させるためには、チームを自己組織化し、組織の官僚機構を最小限にして、チームが継続的に変化に適応しながら、活動できるようにする必要があります。

次のレイヤーがスクラムレイヤーです。

スクラムマスターが、共通の目標に向かって協力し合う自己組織化されたスクラムチームをつくれば、継続的な改善を通じて、2倍の仕事を半分の時間で実現できることを私たちは示してきました。

そして、その次にScrum@Scaleレイヤーがあります。

Scrum@Scaleを実践するJohn DeereやRocket Mortgageのような会社では、スクラムが何百のチームにスケールしても、チーム間の調整のオーバーヘッドを最小化して、組織の適応力や生産性が向上し、企業価値の大幅な向上を実現しました。

スクラムやScrum@Scaleが組織に広がると、次はアジャイルの価値レイヤーへと遷移します。

アジャイルの価値が組織全体に行き渡り、メンバー一人ひとりの可能性が解き放たれ、メンバーやチームのコレボレーションが加速し、変化に適応しながら、品質と顧客価値の高いプロダクトが次々とリリースされるようになります。

そして、最後が、エクストリームアジャイルの要であるAIレイヤーです。

スクラムチームの一員としてAIを導入することで、AIがアジャイルの働き方のフィードバックループを早め、プロセスを自動化し、パフォーマンスを飛躍的に引き上げ、指数関数的な効果を組織にもたらします。

AIは半年ごとに10倍賢くなっており、人間の頭脳を凌駕するのももはや時間の問題です。

私たちスクラム実践者は、今すぐAIをスクラムチームやScrum@Scaleの運営に取り込み、2030年までにチームの生産性を30倍から100倍向上する必要があります。

実際、Microsoftは直近、従業員の12%を解雇し、AIの専門家を雇い直しました。2030年まできっと毎年そんなことを続けるつもりでしょう。

では、次に具体的にどのようにチームにAIを導入するかを見ていきましょう。

参考となるのが、チェスと囲碁におけるAIの活用です。チェスと囲碁では、AIだけで戦うよりも、人間とAIの組み合わせのほうがはるかに優れた成果を生み出すこと分かっており、実際、直近の世界大会でもAIだけのチームではなく、数人の人間とラップトップ上のAIの混合チームが世界一になっています。

スクラムチームにも同じことが言えます。人とAIがチームとしてタッグを組むことが重要です。

私は4つの会社を経営してるのですが、新たにフィンテックのスタートアップとして、従業員の経費レポート作成を自動化するサービスを開発するために2人の人間と6つのAIで構成されたスクラムチームを立ち上げました。
Scrum Sage:Zen Edition は、ChatGPTに公開されている、Jeff Sutherland博士が作成したAIモデルです。スクラムおよびScrum@Scaleの運営に関する相談にぜひご活用ください。

最初のバージョンのアプリはわずか5週間でリリースされ、複数の従業員の経費レポートを1秒以内に出力できました。その間、複数のAIが助け合って、アプリの設計・コーディング・テストを実施しました。

次のバージョンでは、従業員とAIボットが自然言語で対話しながら、経費レポートを出力できるようになりました。最初のバージョンの開発から次のバージョンの開発の間、AI同士のコミュニケーションが大幅に改善され、チームのベロシティは500%向上しました。

AIの専門家は、近い将来、1人の人間とAIのチームによる最初のユニコーン企業が生まれると言っています。

話が変わりますが、最近アメリカでは、アジャイルはもはや過去のものだと言われることがあります。

AIを導入せず、チームや組織の生産性が改善されない従来型のアジャイルは確かにもう終わりました。

AIを活用した新たなエクストリームアジャイルを実現したいなら、私が提唱するアジャイルテクノロジースタックを実践する必要があります。

スクラムの実践者は、スクラムチームにAIを導入する方法をすぐに学んでください。たとえ今、課題や緊急性を感じてなくても、いますぐ始めてください。

そうすれば、2030年までにチームの生産性が30-100倍向上し、スクラムの実践者として、あなたはこれからも活躍し続けることができるでしょう。

AIとスクラムの融合に向けて、今もなおスクラムおよびScrum@Scaleフレームワークを改善し続ける博士のあり方に心から尊敬の念を抱くと同時に、Scrum Inc. Japanとしても、研修やコーチングを通じて、日本企業のエクストリームアジャイルの実現を支援していきたいと思いました。

スクラムチームやScrum@Scaleの運営にどのようにAIを活用すべきか、ご相談がある方はぜひ、以下よりお問合せください。

執筆:和田 圭介、内山 遼子