• HOME
  • Blog
  • アジリティとAIの共進化 – スクラムが紡ぐ組織の未来

Blog

アジリティとAIの共進化 – スクラムが紡ぐ組織の未来

2024.12.11

こんにちは、Scrum Inc. Japan アジャイルコーチの山本尊人です。

先日11月21日から2日間で開催されたAgile Japan 2024における講演「人間中心のマネジメントへの変革 スクラムが紡ぐ組織の未来」について、皆様と共有したい内容をまとめました。

講演スライドはこちらに公開しています。

AIとアジリティの時代における組織の課題とは?

私たちは今、AIの急速な進化とビジネス環境の複雑化という大きな変化の波に直面しています。この変化は、従来の複雑な仕事(Complicated Work)から、より創造性と適応力が求められる複雑な仕事(Complex Work)へのシフトを促しています。

従来の複雑な仕事 (Complicated Work)

  • 特徴:多くの部分が複雑に組み合わさっているもの
  • 課題:組織の既知の問題に対処するための再現可能なプロセスを作成すること
  • ビジネスの成功要素:詳細な計画、標準化、変動の排除
  • 効率性に焦点を当てる

これからの複雑な仕事 (Complex Work)

  • 特徴:多くの部分が互いに関連しており、その関係が理解しづらいもの
  • 課題:反復しない知識労働や答えがない問題に対応すること
  • ビジネスの成功要素:創造性、革新性、適応力、迅速な反応
  • 有効性・効果性に焦点を当てる

このような環境下で組織が成功するためには、創造性、革新性、適応力、迅速な反応が不可欠です。そして、これらの要素を最大限に引き出すためには、アジリティとAIの共進化が鍵となります。

Agile Japan 2024での山本の講演の様子

スクラムAIチームの実験

ジェフ・サザーランド博士のリーダーシップのもと、Scrum Inc.では世界初のスクラムAIチームの実験を行いました。この実験では、AIを活用して経費報告書を生成するシステムを開発しました。

バージョン1.0の開発

  • 1週間スプリントで5スプリント実施
  • AIの役割:
    • ChatGPT、Github Copilot、Jetbrains AIは、システムがモジュールを数十個持つようになるとすぐに失敗に陥った
    • Claude 3.5がリードプログラマーとしてコードの大部分を作成
    • 他のAIがコードレビュー、解決策の提案や改善、テストスクリプトの作成を担当
  • 成果:経費レポートは、トレーニング後1秒未満で、4社の四半期分の経費報告書を複数のCIOが監査可能な形で生成

バージョン2.0の開発

  • 特徴:
    • ChatGPTがユーザーと自然言語で会話しトレーニングデータを作成し投入
    • ルールエンジンDurable Rulesを実装
    • エンドユーザーの様々なケースに対してAIがシステムを迅速に更新
  • 成果:
    • Version 1.0と同程度の時間がかかる計画としたが1週間のスプリント1回のみで完了
    • AIの知識向上、人間とAIとの相互コミュニケーションの改善により500%の加速を実現

この実験は、AIと人間が協調することで、驚異的な生産性向上が可能であることを示しています。

小さなチームの中のAI

AIの導入により、人間のチームの規模は小さくなっていく傾向にあります。
例えば、以下のような構成が考えられます:

  • 3人の人間と2つのAI
  • 2人の人間と3つのAI
  • 1人の人間と4つのAI

このような環境下では、「自律した個」がより重要になります。人間は、AIにはできない価値創造や感情に関わる仕事、個別具体的な課題に自律的に取り組むことが求められるでしょう。

スクラムマスターの役割の進化

AIと小さなチームで働く時代のスクラムマスターには、新たな役割が期待されます:

小さなチームの中のスクラムマスター

  1. プロダクトオーナーと開発者の成長を促す
  2. チーム内のプロセスを改善する
  3. 複数の小さなチームのスクラムマスターを兼務する

チームをまたぐスクラムオブスクラムマスター

  1. プロダクトオーナーによる価値の創造を支援する
  2. AIを最大限活用し、プロセスを改善する
  3. 人の感情知性、モチベーションや成長を促す
  4. 「自律した個」が協力しあうアジャイルな組織を形成する

スクラムマスターAI

  1. スクラムの正しいことや中央値的なことを答える
  2. 蓄積したデータを分析して問題点を見つけ、改善策を提案する

AIの時代においても、人間中心のマネジメントの重要性は変わりません。むしろ、「自律した個」に向き合い、成長を促すサーバントリーダーの存在がより重要になると考えています。

AIと働く時代の人の働き方

新しい価値を生み出していく働き方が今後重要になってきます。AIの導入により、人間のチームの規模は小さくなっていく。そんなときに個人ひとりひとりとリーダーはより人にフォーカスし、それぞれの役割を進化させていくことになるのではないでしょうか。

多様で自律した個の役割とは?

  1. 価値を創造する
  2. 人・感情を動かし、クリエイティブに仕事をする
  3. 個同士でコミュニケーションを取る

サーバントリーダーの役割とは?

  1. 価値の創造をサポートする
  2. 個の成長を加速する
  3. 自律した個の集団を形成して価値の創造が連鎖する環境を整備する

最後に

スクラムをベースとした活動を通じて、プロダクトと人の成長を図り、価値の創造が連鎖する環境を整備することが、これからの組織には求められます。AIとアジリティの共進化は、組織の未来を形作る重要な要素となります。

アジリティとAIの共進化は、私たちの働き方を大きく変えていくでしょう。しかし、その中心にあるのは常に「人」です。人間中心のマネジメントを実践し、AIと協調しながら、より価値ある未来を創造していくことが、これからの組織には求められています。

作成日:2024/12/11

著者:山本尊人