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自律と全体最適の両立 – AirbnbとAmazonに見るアジャイル組織運営の実態

2024.12.18

現代のビジネス環境は、データAIの進化によって劇的に変化しています。市場とテクノロジーの変化のスピードに対応し、柔軟に価値を提供するためには、従来のトップダウン型の組織を根本的に変革する必要があります。

ここでは、AirbnbAmazonの事例を通じて、なぜいまビジネスアジリティを実現する新たな組織運営モデルが必要なのかを、わかりやすく解説します。

グローバル企業はより加速している

グローバル企業は、AIとデータを戦略的に活用し、ビジネス価値の創出を加速させています。先進的な企業では、AIを活用するために「自律的に判断するチーム」を中心とした組織を構築し、迅速な意思決定と価値提供を実現しています。

一方、AIやデータの活用に遅れをとっている企業は、効率性の低下、イノベーション機会の損失、競争力の低下などのリスクに直面しています。多くの日本企業が、AIを業務効率化に取り組んでいますが、イノベーション創出にまでつなげられている企業は多くありません。

AIの戦略的活用は、企業の競争力を大幅に向上させる一方で、導入に遅れを取る企業にとっては厳しい未来をもたらす可能性があります。日本企業がAI活用で遅れを取り戻すためには、人材の育成・確保、データ活用基盤の整備、規制環境の改善などに取り組むとともに、自社の業務やビジネスモデルに適した、新たな組織運営方法を模索していくことが重要です。

データとAIで「自律的に判断するチーム」

AirbnbとAmazonは、データとAIを活用し、現場のチームが自律的に意思決定できる環境を作っています。これにより、トップダウンの指示を待つことなく、迅速に変化に対応し、顧客に価値を届けることを可能としています。AirbnbやAmazonで、チームがデータドリブンで価値提供している例を挙げてみましょう。

  • Airbnb:検索アルゴリズムやダイナミックプライシングで、顧客に最適な物件を提案。
  • Amazon:A/BテストやAIアルゴリズムを駆使し、レコメンデーションや価格最適化を継続的に改善。

両社のチームは、A/Bテストやアルゴリズムモデルの実験を繰り返し、その結果をもとにデータドリブンで、自律的に顧客に価値を届け続けています。

しかし、自律したチームが増えると、新たな課題も生まれます。企業は、チームの活動と組織全体の戦略に不整合が生じたり、独立したチーム間の開発プロセスとアーキテクチャの依存関係がボトルネックとなるなどの課題に直面します。AirbnbとAmazonは、これらの課題にどのように対応しているのでしょうか。

Airbnbの「Founder Mode」はプロダクトの価値を最大化する

Airbnbでは、組織が急速に拡大するなか、外部人材を大量に雇用し、プロダクトマネージャーの権限を任せる「Manager Mode(管理者モード)」を採用していました。経営層が間接的にしかチームと関わらなくなったため、チームに経営者のビジョンの共有がされず、イノベーションのマインドもチームから失われていきました。また、雇われのマネージャーは、ユーザーの体験価値や長期的なプロダクトの成功よりも、短期的なゴールを重視する傾向があり、結果として、プロダクトの体験価値や顧客満足度が下がっていました。そこで、Airbnbでは、「Founder Mode(創業者モード)」と名付けた大幅な組織変革を実行しました。

Founder Modeの概要

  • プロダクト戦略と開発の統合
  • プロダクトの戦略と開発が分断されていた課題を解決するため、プロダクトチームを統括するポジションにプロダクトマーケターを配置。プロダクトマーケターとプロダクトチームが連携することで戦略と開発が一体となり、顧客中心の視点でユーザー体験と長期的な価値を重視できる体制を整備しました。

  • 経営層と現場の連携強化
  • 経営層がプロダクトマーケターやプロダクトチームと直接連携することで、企業全体のビジョンを現場の戦略に反映。この結果、イノベーションが促進され、組織全体の方向性が一致するようになりました。

  • マトリクス組織への回帰
  • プロダクトごとの組織に機能別の横軸組織を追加したマトリクス組織に戻し、プロダクトマーケター同士が横連携。会社全体の戦略と各プロダクトの戦略を統一し、効率的で一貫性のある組織運営を実現しました。


Founder Modeの効果

  • 迅速な意思決定
  • 創業者がプロダクト開発に直接関与することで、意思決定のスピードが向上し、柔軟な対応が可能となりました。

  • ビジョンの一貫性
  • 創業者の深い関与により、企業全体で統一されたビジョンの共有が進み、組織の方向性が明確化されました。

  • イノベーションの促進
  • 階層を超えた直接的なコミュニケーションにより、革新的なアイデアの創出と実行が促進されました。

Airbnbの組織変革は、経営層のビジョンや戦略とチームの方向性を揃え、ユーザー体験の向上とイノベーションの創発を通じて、プロダクトの価値の最大化に貢献しています。

Amazonの「テクニカルプログラムマネージャー(TPM)」がエンジニアリングの成果を最大化する

Amazonでは、小規模な「2Pizzaチーム(Amazonにおけるスクラムチームの呼び名)」がサービスを開発していますが、局所最適化を防ぐためにテクニカルプログラムマネージャー(TPM)が配置されています。

2000年代、急速にサービスが拡大をしていたAWSでは、マイクロサービスを開発する小さなチームの増加により、開発プロセスやアーキテクチャの複雑化が組織の成長の大きな課題となりました。そこで、AWSでは、エンジニアリングチームを横断して技術的課題を管理し、依存関係を解決しながら、大規模な技術プロジェクトを推進するリーダーとして、TPMを設置しました。TPMは、AWSのサービス拡大に大きく貢献し、その後、Amazon全体で採用されるようになりました。

テクニカルプログラムマネージャー(TPM)の役割

  • アーキテクチャと技術戦略の最適化
  • 技術的なボトルネックを解消し、効率的なシステムを構築。

  • 複数チーム間の連携強化
  • アプリケーション、インフラ、データチームをつなぎ、全体最適を実現。

  • デリバリーと進捗管理
  • プロジェクトの遅延を防ぎ、品質を管理。

  • データに基づく意思決定支援
  • KPIや技術指標を分析し、チームの改善をサポート。

  • リスク管理と障害解決
  • 予期しない問題にも素早く対処し、解決に導く。

TPMは、ECをはじめ、インフラサービス、電子書籍、薬販売など、サービス領域を拡大しながらも、少人数の「2Pizzaチーム」が素早く顧客価値をデリバリーし続けるために、エンジニアリングチーム間のプロセスや組織、アーキテクチャを継続的に最適化しています。

弊社メンバーが今年10月に訪問したBoston Dynamics社のIT部門は、Amazon出身者によって組織運営されていました。同社では、TPMがスクラムのトレーニングやコーチの役割も兼任しています。アジャイルな組織文化を導入し拡大していく企業においては、TPMがアジャイルやスクラムの変革を推進する「チェンジエージェント」として重要な役割を担う場合もあります。

AirbnbとAmazonに共通する「現場の自律性」と「全体最適」

AirbnbとAmazonは、素早く顧客へ価値をデリバリーするために現場のチームに権限を与えつつ、組織全体として全体最適を図る点で共通しています。

この「現場の自律性」と「全体最適」の両立は、ビジネスアジリティの本質であり、変化の激しい時代に求められる組織の姿です。2つの組織は、データとAIの時代における組織の成長の実現のため、アジャイルの原理原則を組織の運営に活用し、独自の改善を加え続けています。

Scrum@Scaleによる自律と全体最適の実現

Scrum@Scale(S@S)は、AirbnbやAmazonが実現しているビジネスアジリティを、体系的に導入するためのフレームワークです。

Scrum@Scaleにおける自律したチーム

S@Sでは、チームが自律的に判断しつつ、組織全体が一貫した方向性を持つことで、全体最適を実現します。AirbnbやAmazonのようにデータとAIを活用する組織文化と非常に相性が良く、現場主導の迅速な意思決定を支えます。

Scrum@ScaleのPOサイクル

S@SにおけるPOサイクル(Product Owner Cycle)では、経営層とプロダクトオーナーチームが会社横断でビジョンを共有し、優先順位を明確にしながら製品価値を最大化します。AirbnbのFounder Modeの導入はまさにこのPOサイクルと一致しており、AirbnbのプロダクトマーケターはS@SのChief Product Ownerの役割を果たしています。

Scrum@ScaleのSMサイクル

Scrum@ScaleのSMサイクル(Scrum Master Cycle)では、複数のスクラムチームの連携を強化し、技術的な課題解決を支えます。AmazonのTPMは、S@SのScrum of Scrums Master(SoSM)と同様の役割を果たしており、チーム間の調整と全体最適を担っています。

まとめ:Scrum@Scaleで未来の組織をつくる

データとAIが進化する時代、現場の迅速な判断組織全体の最適化が欠かせません。Airbnbの「Founder Mode」Amazonの「TPM」の事例は、Scrum@ScaleのPOサイクルとSMサイクルの価値を示しています。

Scrum@Scaleは、組織の未来を切り拓くための「進化の手段」であり、柔軟性とスピードを最大化し、変化し続ける市場で競争力を維持するための強力なツールとなります。

日本企業が国際競争力を高め、持続的な成長を実現するためには、現状の組織構造に固執せず、顧客価値にフォーカスしたアジャイルな組織への変革が不可欠です。Scrum@Scaleの導入を通じて、自律性と全体最適のバランスを取りながら、急速に変化する市場環境と新たなテクノロジーに適応できる組織づくりを目指しましょう。

作成日:2024/12/18

著者:和田圭介・山本尊人