野中郁次郎先生を偲んで──当社創業者・取締役からの追悼メッセージ
2025.01.30
2025.01.30
2025年1月25日、スクラムの祖父としても知られる一橋大学名誉教授の経営学者、野中郁次郎先生がご逝去されました。
ここで、当社創業者・取締役より追悼のメッセージを掲載させていただきます。
Ikujiro Nonaka – 1935-2025
Professor Emeritus, Hitotsubashi University, the Grandfather of Scrum
(日本語文は下部に掲載)
It is with great sadness that we honor the passing of Professor Nonaka who has been so important to the creation and evolution of the Scrum framework.
When the first Scrum team read his paper in 1993 they held a retrospective on it the same day. They decided in the meeting to call what we were doing Scrum and that the team leader should be called the Scrum Master.
Takeuchi, H., & Nonaka, I. (1986). The new new product development game. Harvard Business Review, 64(1), 137-146.
The knowledge generation model in the paper was used to train our customers in Scrum and role out the first Scrum teams outside our organization
I personally met Nonaka-san in Tokyo many years later in 2011. At the end of my Scrum training class I saw him sitting in the back row and realized he was a powerful spiritual presence. I spent time with Nonaka on many occasions in Japan and even more time with his partner Takeuchi at the Harvard Business School. Takeuchi viewed him as the spiritual leader of their work together. Professor Nonaka mentored many people and when my wife, a Unitarian Universalist Minister said she had one of his disciples in her congregation he said to her, you are a Sensei and can call me Jiro. The rest of us, including me, were careful to call him Nonaka-san.
Beginning with our first dinner in 2011, Prof. Nonaka emphasized the importance of reinvigorating innovation in Japan and that Scrum could be a great asset. I promised to help. When we were asked to create Scrum Inc Japan and the Registered Scrum program in later years, we fulfilled my promise to him. It also allowed us to meet repeatedly and consistently learn deeper new things from a man the Japanese viewed as a national treasure.
Nonaka’s first job was analyzing why Japan lost World War II for the Japanese government. He had personally seen the faces in the cockpit of American fighter pilots bombing Tokyo and was profoundly affected. Sharing my career as a U.S.A.F. fighter pilot provided a tense moment of reconciliation and forgiveness. So I salute Professor Nonaka on his passing, a national treasure for Japan and a personal treasure in my life.
(日本語文)
野中郁次郎 – 1935-2025
一橋大学名誉教授、スクラムの生みの親
スクラムフレームワークの創出と進化に多大な貢献をされた野中教授の訃報に接し、深い悲しみに包まれています。
1993年に最初のスクラムチームが野中先生の論文を読んだとき、彼らはその日のうちに振り返りを行いました。そして、ミーティングで自分たちがやっていることをスクラムと呼び、チームリーダーをスクラムマスターと呼ぶことにしました。
*竹内弘高、野中郁次郎(1986年)。新しい新製品開発ゲーム。ハーバード・ビジネス・レビュー、64(1)、137-146。
論文で紹介された知識創造モデルは、当社のお客様にスクラムをトレーニングし、当社以外の組織で最初のスクラムチームを立ち上げるために使用されました。
それから何年も経った2011年に、私は東京で野中さんと個人的に会いました。 スクラムトレーニングクラスの終わりに、私は後ろの列に座っている彼を見つけ、彼が強力な精神的存在であることに気づきました。 私は日本で野中さんと何度も時間を過ごし、ハーバード・ビジネス・スクールで彼のパートナーである竹内さん(竹内 弘高氏)ともさらに多くの時間を過ごしました。竹内氏は、野中氏を自分たちの仕事の精神的指導者とみなしていました。野中教授は多くの人々を指導してきましたが、ユニテリアン・ユニヴァーサリスト派の牧師である私の妻が、自身の教区に野中氏の弟子がいると話したところ、野中氏は「あなたは先生なのだから、私を次郎と呼んでいいですよ」と言いました。私を含め、他の人々は、野中氏を「野中さん」と呼ぶように気を遣っていました。
2011年の最初の夕食会から、野中先生は日本におけるイノベーションの活性化の重要性を強調し、スクラムがその大きな力になることをおっしゃいました。私はお手伝いすることを約束しました。その後、Scrum Inc. Japanとスクラム認定プログラムの設立を依頼されたとき、私は野中先生との約束を果たしました。また、それによって、私たちは繰り返し先生にお会いし、一貫して、日本の宝である先生からより深く新しいことを学ぶことができました。
野中氏の最初の仕事は、第二次世界大戦で日本が敗北した理由を日本政府のために分析することでした。 東京を爆撃する米軍の戦闘機の操縦席の窓から見た人々の顔を直接目にした野中氏は、大いに影響を受けていました。 私は、米空軍の戦闘機パイロットとしての経歴を共有し、和解と許しの緊張感に満ちた瞬間を共有しました。 それゆえ、私は、日本にとっての国宝であり、私にとっての人生の宝物である野中先生のご逝去を悼みます。
2025年1月
Scrum Inc. 創業者
スクラム共同考案者
Jeff Sutherland
At my last meeting with Professor Nonaka, he told me that we exist only in relationship with each other. He said that what creates the space for innovation to happen, for creation to happen, is moving from “I” and “they” to “we.” He said that humanity exists in that connection. He taught me that the Japanese kanji character for “humanity” is an ideogram of two people facing each other. Humanity itself exists only in the connection between people. When you are in a partnership, or participating on a team, or working together, or having hundreds of teams aligned on a single goal, you create something larger than the sum of the parts.
That is a lesson I will never forget.
(日本語文)
野中教授と最後に会った時、彼は私に、「私たちは互いに関係し合って初めて存在するのだ」と言いました。そして「イノベーションが起こり、創造が起こるための空間を生み出すのは、 ”私”や”彼ら”から”私たち” へと移行することだ」とも言いました。人類はそのつながりの中に存在するのだと。彼は、日本の「人」という漢字は、二人の人間が向かい合っている表意文字であると教えてくれた。人間性そのものは、人と人とのつながりの中にしか存在しない。パートナーシップを組んだり、チームに参加したり、一緒に仕事をしたり、何百ものチームがひとつの目標に向かって足並みを揃えたりするとき、部分の総和よりも大きなものが生まれる。
この教訓を私は決して忘れないだろう。
2025年1月
Scrum Inc. CEO
JJ Sutherland
私は野中先生との語らいの中で、社会やビジネス活動と、その中での自身のあり方が、1つのものであることを学びました。いつでも新しいことは自身の変化からはじまり、人との共感を通して外に伝わること。AIやデジタルの時代だからこそ、表層に流されず、一人ひとりとの温かな繋がりの意味を大切にしていきたい。先生の肉声は今でも、私の中に響きます。先生と共著で日本で書かれたスクラムの本を出版できたことに感謝します。
2025年1月
Scrum Inc. Japan 取締役
(株)永和システムマネジメント 代表取締役社長
平鍋健児
このたび、日本の偉大なる経営学者である野中郁次郎先生がご逝去されたとの報に接し、心より哀悼の意を表します。
野中先生はいつもスクラムを実践する人々を応援くださいました。数々の教えの中で私たちに最も影響を与え続けていることは、エンパシー(共感)から始まる価値創造です。顧客とチームの共感、チームメンバー同士の人と人との共感からしか「意味づくり」、「価値づくり」は起こらない。スクラムは理論から始まるのではなく、共感から始まることを教えてくださいました。その洞察と知見は、私たちのようなスクラムを実践するすべての人々にとって、かけがえのない道しるべであり続けています。
Scrum Inc.一同、先生の卓越した業績と献身的なご尽力に深く感謝申し上げるとともに、その精神を受け継ぎ、スクラムの実践を通じて共感を軸とした価値創造を日々の活動の中で体現していく所存です。
改めて、野中郁次郎先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
2025年1月
Scrum Inc. Japan
代表取締役社長 荒本実