スクラムマスターについてのよくある誤解とは?
2025.06.13
2025.06.13
スクラムマスター=管理者?ファシリテーター?それとも“ただの調整役”?
アジャイルコーチとしてスクラムの現場を日々支援する中で、スクラムマスターという役割に対する誤解の根深さを実感します。
本記事では、現場でよく見られる誤解を一つひとつ解きほぐし、スクラムマスターという役割の本質を掘り下げていきます。
– マネージャーではない / 管理者でもない / 引っ張らないリーダーとは?
スクラムマスターの役割について、研修の受講者様やご支援先で以下のようなご質問をいただきます。
「進捗を管理する人ってことでしょ?」
「プロダクトオーナーのサポート係って感じかな」
「イベントの司会をする人…?」
これらはうまく行っていないスクラムチームにありがちな誤解で、スクラムマスターとして、本来あるべき姿からズレてしまっています。
この章では、スクラムマスターが現場で誤解されやすい5つのポイントを紹介しながら、本来の姿との違いをわかりやすく整理していきます。
スクラムマスターは、チームの仕事を可視化したり、イベントのファシリテーションを行うことから、プロジェクトマネージャーの役割と混同されやすいです。
しかし、スクラムマスターは「進捗を管理する人」ではなく、チームが自分たちで進捗を見える化し、調整できるように支援する人です。
「POと開発者のコミュニケーションが少ない」「POが忙しいから、とりあえずスクラムマスター経由で」…このようにスクラムマスターが伝達役となっているチームがあります。
スクラムではチーム全員(開発者/PO/SM)が直接会話することが基本です。スクラムマスターが伝言ゲームをしてしまうと、チーム全体のコミュニケーション密度が下がることで情報の歪みや当事者意識の欠如が生じ、チームのスピードが低下します。
従来の階層型組織の延長で、マネージャーがプロダクトオーナー(PO)を、サブマネージャーがスクラムマスター(SM)を務めると、関係性は上下構造になりがちです。
このようなチームでは、POがチームに「やってほしいことを命令する」場面が多く見られ、自律性が損なわれます。
その結果、開発者のモチベーションは低下し、顧客に価値を届けるスピードにもブレーキがかかります。スクラムの持つ本来のポテンシャルが、組織構造によって抑圧されてしまうのです。
スクラムにおいては、POとSMはどちらも“リーダー”ですが、担うリーダーシップの「種類」が異なります。
この2つのリーダーシップが並立し、時に健全な議論をしながら共にチームを支えることで、開発者の主体性が守られ、チーム全体が自己組織化に向かっていくのです。
スプリントの計画・デイリースクラム・ふりかえりのファシリテーター。それは役割の一部に過ぎません。
スクラムのイベントはそれぞれの目的があり、スクラムマスターは限られた時間の中でチームがイベントの目的を自ら達成できるようにするための“仕掛け人”です。
チームが自己組織化を実現し、他部署との連携や意思決定にも自律的に対応できるようになった。これは一つの「成熟」のかたちです。
このように成熟したチームになるとスクラムマスターは不要になるのでは?
そのように思う人もいるかもしれません。
しかし、チームの成長に終わりはなく、チームとともにスクラムマスターも成長していきます。加えて、組織の課題やチーム間の依存関係にも着目し、ボトルネックを解消することでチーム・組織のアジリティを高め続けます。
例えるなら、植物の世話を終えた庭師が、今度は森全体の生態系を整えにいくようなものです。成熟は「手放す」合図ではなく「広げる」合図です。
スクラムマスターは、いわば“チームという場を育てる庭師”のような存在です。
経験に基づく、静かな観察と問いかけによって、チームの流れを整え続けるプロフェッショナル。
表に立って指示を出すのではなく、日々の対話や雰囲気の“温度”を観察し、小さな仕掛けを施しながら、チームが自らの力で成長できる環境をつくる。
それは一見すると“何もしていない”ように見えるかもしれません。
しかし、そこには深い洞察力と問いの技術が隠れています。
スクラムマスターの価値をもう一度、チームの中で見直してみてください。
“整える”という見えにくい仕事こそが、チームの未来を形づくっているのです。
執筆:梅澤 友紀