プロダクトオーナーに「必要なドメイン知識」はどれくらい?
2025.06.19
2025.06.19
スクラムコミュニティにとって、また一つ重要なドキュメントが発表されました。先週公開された「Scrum Guide Expansion Pack(以下、拡張パック)」です。
スクラムの共同考案者であり、スクラムガイドの共同著者であるジェフ・サザーランド博士も、この拡張パックの著者の一人に名を連ねています。先日、私たちScrum Inc. Japanは、ジェフ博士とミーティングをする機会に恵まれ、彼がこの拡張パックの作成にどう関わり、その目的と、この拡張パックで何を実現したかったのかを直接聞くことができました。このブログでは、その対話の中からの「ジェフ博士の想い」を、皆さんと共有したいと思います。
AIの進化により、「アジャイルは必要ない」、「スクラムはもはや関係ない」など、アジャイルやスクラムがもはや通用しないという声が出ています。しかし、ジェフ博士は、「AIを活用するためには、よりアジャイルである必要があり、スクラムはこれまで以上に重要になる」と主張しています。ジェフ博士の著書である「スクラムの第一原則(First Principle in Scrum)」においてもこれを繰り返し述べています。この拡張パックは、こうした誤解に異議を唱えることを意図しています。
2020年版スクラムガイドは短くてシンプルで、今日においても的確です。ただ今日抱えているすべての変化、特にAIによってもたらされる変化について、人々を導くための情報が不足しているだけなのです。拡張パックはスクラムガイドにあるルールを書き換えたわけではなく、それを補完する目的があります。拡張パックの冒頭でも、2020年版スクラムガイドの内容と決して矛盾しない意図が明確に言及されています。
AIが今日の企業にとって最大の環境変化であり、すべての企業に革新と混乱をもたらす中、スクラムとAIを組み合わせることで、企業がより速いペースで活動し、成果を出せるよう支援することが目的です。ジェフ博士やスクラムコミュニティーはスクラムの専門家として、AIを活用した企業を支援するための知識とスキルを提供できると考えています。
ジェフ博士は、スクラムガイドが「固まっていて、決して変わらず、誰もそれについて話そうとしない」状態を終わらせたい、という強い意図がありました。この拡張パックは、GitHubで公開され、誰もがコメントでき、四半期ごとに更新されるというコミットメントがなされています。つまり、誰もが、拡張パックを変更するために意見を主張する機会があるということであり、拡張パックは変更され続ける、「生きたドキュメント」になります。これが、ジェフ博士が拡張パックの著者たちと協力してやりたかったことの一つです。
この拡張パックは、新しいスクラムガイドとしてではなく、2020年版スクラムガイドと矛盾しない範囲で、追加のコンテキスト、プラクティスを提供しています。
この拡張パックは、主に、スクラムのプロフェッショナルに向けたもので、スクラムを実際に機能させ本質的なものにするための拡充です。これは、複雑適応系、プロダクト思考、リーダーシップなど、Scrum Inc.の既存のトレーニングコースでカバーされている多くの概念を一冊にまとめたものです。スクラムに取り組んでいる人が、スクラムの本質的な意義を改めて深く理解し、さらに機能させるために有効といえます。
また、AIに関する多くの内容と、「スクラムの第一原則」からの重要な要素が含まれています。AIとスクラムとの統合において、スクラムとエクストリームプログラミング(XP)の原則を用いることで、AIはより速く動き、人間とAIの協働は、はるかに心地よいものになります。AIとの協働によりスクラムはこれまで以上に効果的なものになり、重要となります。
このドキュメントは「生きている」ものであり、コミュニティからのコメントや批判を受け入れ、改善していくことができます。コミュニティによる改善への開かれたプラットフォームなのです。
拡張パックにはまだ十分なパターン(試されテストされた実践)が記載されておらず、一部、実際に機能したことがないものとしての懸念があります。そのため、コミュニティからのコメントや批判を通じて、より実用的なパターンに基づいた内容へと改善していく必要があります。
AI時代におけるチームダイナミクスの変化に関するデータに基づいた研究結果を共有することで、スクラムコミュニティが信頼できる情報源としての地位を確立する助けとなるかもしれません。
この拡張パックを手に取り、そして、ご自身の現場で試し、そこから得られた知見や意見を、ぜひフィードバックという形で届けてください。
私たちScrum Inc.はスクラムコミュニティーをリードする一員として、皆さまの意見、提案と共に、この開かれたプラットフォームを通じてスクラムの継続的な進化に貢献していきます。