デイリースクラム:開発者主体の15分で、チームを加速させる
2025.08.20
2025.08.20
「デイリースクラム(Daily Scrum)」は、スクラムの中でも特に誤解されやすく、現場での実施にばらつきが出やすいイベントです。
進捗報告会、朝礼、タスク確認会議…そうした理解は、残念ながらどれも本質から外れています。
スクラムガイドに立ち返り、「デイリースクラムは誰の、何のためのものか」という問いを深く掘り下げることで、チームの自己組織化とスプリントの加速に繋がるデイリースクラムのあり方について、考察を深めていきましょう。
スクラムガイドでは、デイリースクラムについて次のように書かれています。
デイリースクラムの⽬的は、計画された今後の作業を調整しながら、スプリントゴールに対する進捗を検査し、必要に応じてスプリントバックログを適応させることである。デイリースクラムは、スクラムチームの開発者のための 15 分のイベントである。
2020-Scrum-Guide-Japanese.pdf
このイベントの主役は開発者(Developers)です。プロダクトオーナー(PO)やスクラムマスター(SM)ではありません。また、デイリースクラムはプロダクトオーナーやマネージャーへの報告の場ではありません。日々の複雑な状況の中で、プロダクトバックログアイテムをインクリメントに変える役割を担う開発者が、自らの知見と現実を踏まえて、スプリントゴール達成に向けて「次に何をすべきか」を話し合う。これこそが、デイリースクラムの本質です。
スクラムは複雑な状況に適応していくためのフレームワークで、状況に合わせて最適な次の一手を導き出すことができるよう設計されています。
デイリースクラムでは、以下のような問いを開発者自身が自発的に問いかけ合う、投げかけ合うことが求められます:
この問いかけや投げかけは、単に「自分たちが何をやったか」を共有するものではなく、スプリントゴールに向けて自分たちが行っている作業の再計画(replanning)であり、開発者が、スプリントでの戦略的な判断を行う重要な時間です。
デイリースクラムを正しく行うことは、開発者の時間と自律性を守ることにもつながります。
開発者は、単なる作業者ではなく、スプリントゴール達成というミッションに対する意思決定者なのです。その前提に立てば、デイリースクラムは単なる朝会ではなく、「自分たちの力で進路を決める場」になります。
デイリースクラムの以下のような運用は、スクラムの価値と原則を損ないます:
スクラムパターン (*1) の一つに「ScrumMaster Incognito」パターンがあります。
これは、ともすれば開発者がスクラムマスターにお伺いを立てて判断を待ってしまう状況に陥らないよう、スクラムマスターは、開発者が主体的にデイリースクラムを進めることを促す必要がある、と述べています。このことから、プロダクトオーナーはデイリースクラムには受動的に参加し、開発者から質問があった際に答える程度の関与度合いでよいですし、スクラムマスターは開発者が自らに、またはプロダクトオーナーに確認やお伺いを立てるような状態が発生しないよう、チームをコーチすべきです。
一方、デイリースクラム内での3つの質問のうち、「昨日やったこと」は、スプリントバックログを前にしてデイリースクラムをしていれば自明なため、省くことも可能でしょう。また、再計画を強く意識してもらうために、3つの質問の代わりに「今日、スプリントゴール達成のために何をすべきか?」を全員に問いかけてもよいかもしれません。加えて、余裕がありそうなメンバーに「助けるとしたら、誰のどんな仕事を手伝えそうか?」という投げかけをして、開発者同士の協力を促すこともできると思います。
このように、デイリースクラムの原則を意識し、チームの状況に合わせて柔軟にやり方を変更することで、チームのデイリースクラムをより効果的なものに変えていくことが可能です。
*1 世界中のスクラムの実践者によりまとめられた、特定の場面ごとに適用可能な「こうやればうまくいく」というやり方やノウハウ、またはそれらをまとめたもの。
デイリースクラムという、わずか15分のイベントが、チームの加速、プロダクトの質、そして働く人の幸福度を大きく左右します。デイリースクラムは、「開発者が主役」であり、「チームの現在地を点検し、未来を修正する装置」であるべきです。この原則をおさえた上で、もう一度デイリースクラムに向き合ってみてください。
そうすれば、あなたのチームのデイリースクラムはより良いものになるはずです。
執筆:齋藤 崇
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