トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント 株式会社(TRI-AD)

お客様に信頼され、愛される技術と製品の提供に向けて

自動車業界はいま、100年に一度の大変革の時代を迎えようとしている。クルマがハードウェアだった時代は過ぎつつあり、人工知能、ビッグデータといった技術が進化し、自動車会社もソフトウェア企業への変革が求められている。

そんな中、トヨタグループが自動運転のソフトウェア開発のために昨年立ち上げた新会社が、東京・日本橋のトヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント 株式会社(TRI-AD)である。

ここでは、社員約360*1のほぼ全員が、世界的に支持を集めるプロジェクト管理法である「スクラム」の研修を受け、すでに社員の9割がスクラムを導入してのアジャイル開発に40ほどのチームに分かれて携わっている。

ビジョンと現実から選択した「スクラム」

TRI-AD社を立ち上げ、自動運転のソフトウェア開発を担う際に、今までの伝統的な開発手法である、「ウォーターフォール型」ではなく、「アジャイル型」の開発に変えていかなければならないという認識を、CEOであるジェームス・カフナーをはじめ、経営陣は強く持っていたという。

「日本の培ってきたモノづくりの部分と、シリコンバレーの新しい働き方の部分をいかに共存させるかと考えたときに、スクラム手法というのが最も適していると思いました。」とCOO*2の虫上広志氏は語る。

さらに、アジャイル開発を実践するための「スクラム」というフレームワークは、新会社のビジョンにもピッタリと合致した。

「会社として、どういうビジョンを掲げるべきかを考えました。まずは、お客様に信頼され、愛される商品およびサービスを、適切なタイミングで出していきたい、という思いがありました。」と虫上氏。「そのためには、より生産性を上げることも考えなければいけませんし、よりチームワークを促進できるようにし、会社全体として透明性を上げる。それらが非常に重要だと考えた時に、スクラムという手法に出会いました。重要な要素がほぼカバーされている開発手法で、かつアジャイルにやれるというところが、 スクラム導入の一番のきっかけになりました。」

「スクラム」は、理想のためだけでなく、非常に現実的な選択でもあった。

「従来のエンジンやブレーキ、ステアリングなどの開発は、今までウォーターフォール型でしっかりと一つ一つの部品を作り込んできました。しかし、いわゆる車の頭脳に当たる自動運転の部分になりますと、データやAIやデータを元にした、非常にスピードが速く、かつ変化が多い技術開発が必要になります。そういう意味で、今までのウォーターフォールよりも、臨機応変に、そのスピード感にもついていけるスクラム手法が必要でした。」と、トヨタでの開発経験が長かった虫上氏は語る。

「スクラム」の効果と親和性

その効果については、虫上はこう述べる。

「やはり情報共有がものすごく効率的にできるようになり、各人がどういった仕事を今抱えているのかというのが見えるようになりました。そして、ボトルネックになっているところをチームで解消していくことができるようになりました。」

スクラムを活用して最大の効果をあげるためには、「優先順位づけ」が不可欠であると、虫上氏は言う。 そしてその優先順位をしっかりとつけられるようになるには、①顧客が期待する価値をしっかりと把握すること、②意思決定について会社全体が意識改革をすること、が大きなポイントになってくるという。

トヨタの子会社であるTRI-AD社におけるスクラムでの親和性は高いようだ。

虫上氏はトヨタ時代によく工場に通っていたが、そこで毎日行われる朝・夕のチームミーティングの光景は、スクラムで行われる「デイリースクラム」ミーティングと酷似しているという。

「スクラムを実践しているメンバーの中で、トヨタ生産方式を知る者は、その志が極めて相似であることを感じているはずです。特にチームで協力しながら早く課題を解決していくところに非常に親和性を感じていると思います。」と虫上氏は語る。

従業員の「幸福度向上」

また「スクラム」は生産性の向上だけでなく、従業員の幸福に結びついている。

「スクラムの導入による従業員の幸福度の向上は、今までの私の経験していた自動車業界の中では、あまり表立っていなかった部分だと思います。チームワークが高まれば、結果として幸福度も上がるということが、今回のスクラム導入により得られた大きな学びでした。」

チームワークを高め、透明性を上げれば、生産性が上がる。その結果、従業員の幸福度が向上する。これはTRI-AD社が目指していることでもあり、スクラムがもたらす効果そのものでもある。

「まだまだスクラム手法を導入して数か月程度ですので、いろいろな課題も表れてきています。」と虫上氏は語る。「しかし、そこをしっかりと会社全体で乗り越えていくことで、ビジョンを必ず達成することができるという可能性を、いま感じ始めています。」

1  2019 38日時点
*2  Chief Operating Officer