スクラムで実現する幸せな働き方:日立製作所の挑戦

スクラムで実現する幸せな働き方:日立製作所の挑戦

日立製作所でソフトウェア開発を担う本部では、スクラムを通じてアジャイルな働き方に変えていく活動を推進しています。伝統的な日本の大企業において、アジャイル組織へと変革を推進する原動力は「幸福」にありました。スクラムコーチとして変革の推進役を担う海野さんと小林さんに、より良い働き方を追求し、成長していく過程で得た知見や、その中でScrum Inc.の研修が果たした役割について、変革の担い手の目線で語っていただきました。

左:株式会社日立製作所 マネージド&プラットフォームサービス事業部
ソフトウェアエンジニアリングCoE 海野恵理さん(スクラムコーチ)
右:同上 小林健輔さん(スクラムトレーナー)
(以下、敬称略)

幸福の追求がアジャイル変革の土台に

──今、どのようなお仕事をされていますか?

海野:2024年4月から、あらゆるソフトウェア開発、スキームのコンサルティング及び技術支援を事業とする本部(ソフトウェアエンジニアリングCoE)全体をアジャイル組織に変革していくために、小林さんと二人でスクラムチームを組んで活動しています。組織変革のビジョンは「本部全体がアジャイルなマインドセットを持ち、協力と革新を通じて持続的な成果を生み出す」で、これは変革をリードするリーダーシップチームが作ったものです。

小林:私はそのリーダーシップチームのスクラムマスターも担っていて、このビジョンを作る際のファシリテーションをしました。変革の土台となるテーマは「幸福」でした。売上や利益だけではなく、お客様や従業員といった人々の幸福です。幸福を実現させるためにはアジャイルなマインドセットが大切だということと、バラバラな個の集合体ではなく協力し合う関係性や、変革を持続性のあるものにしたいという想いが詰まっています。

海野:今はビジネスの意思決定を担うリーダーシップチームのビジョンを作ろうと取り組んでいるところです。同じく「幸福」が前提になりそうだと感じています。

──これまではどのようなお仕事・働き方をしていましたか?

海野:元々はフロントエンドのソフトウェアエンジニアで、設計・開発をしていました。スクラムガイドを読んで、正しいスクラムを実践するようになったのは、2020年くらいです。当時、小林さんと一緒にストレージ管理を実現するAPIの開発に携わっており、スクラムを始めたばかりでした。

私は一つのチームのスクラムマスターになりました。本部内では、アジャイルコーチを設けて本格的にスクラムでプロジェクトを進めるのは初めてのケースでした。三年間は一つのチームのスクラムマスターを務め、その後、複数のスクラムチームに共通する課題や障害を解決することを専門とするチームで活動をしていました。そして現在は、一つのプロジェクトに留まらずに、本部全体をアジャイルな組織運営にする活動を始めたところです。

スクラムマスター研修とScrum@Scale研修を両方受講した理由

──どのようなスクラム研修を受講しましたか?また受講する際の決め手は何でしたか?

海野:スクラムマスター研修を受講したのは2020年の秋です。それまでは見よう見まねでスクラムをやっていたこともあって、チームを良くしようと取り組んでいることが本当に正しいのか、チームにとって効果のあることなのかモヤモヤして悩んでいました。

そこで、体系的に理論と実践を学びたくなったことが受講した動機です。その次にScrum@Scale研修を受けたのですが、今後、本部内のアジャイル組織の規模が大きくなりそうだったため、先に知識をつけておきたいと思いました。スクラムの組織への展開が上手くいくように、受講を小林さんにリクエストしたのを覚えています。

小林:それを聞いて、僕はスクラムマスターのキャリアを示しました。一つのチームのスクラムマスターをしていくと、次にSoSのスクラムマスターをしたり、組織のスクラムコーチをしたり、組織変革のために活動するリーダーになっていくことになるので、早い段階で大規模な組織運営やリーダーシップを学んだ方が良いと話した記憶があります。

──研修でどんなことを得られましたか?

海野:ここは熱く語らせてください(笑)。自分に自信がつきました。Scrum Inc.の研修の良いところの一つとして、理論とデータの裏付けがあって納得感を得られたことが挙げられます。自分がやってきたことが正しかったと確認できました。私は働きやすい環境作りを意識してスクラムマスターをしていたため、特にスクラムパターン(スウォーミングや幸福指標など)を学べたのが良かったです。

学びが一番多かったのはスクラムマスター研修ですが、最も手応えを感じたのがScrum@Scale研修でした。刺激がすごく多かったです。Scrum@Scale研修はスクラムを経験している人が集まっているため、皆さん「好奇心のお化け」なんです。私が社内で組織変革のリーダーシップチーム(EAT)を立ち上げています、と話した途端に、囲まれて質問攻めにされたりしました。

世の中にスクラムを実践している人がこれだけいるんだと感じて心強くなり、仲間をたくさん得た気持ちになったのは、Scrum@Scale研修ならではの体験でした。よく覚えているのは、同じテーブルで一緒になったマネジャー職の女性とレトロスペクティブの話になって、その方が実践されている幸福指標の測定方法を教わり、それを持ち帰って今でも実践しています。

研修受講後に起きた、目にみえる変化とは

──研修のあとに海野さんが変わったところはありますか?

小林:目の色が変わりましたね。エンジニアの時よりもスクラムマスターをしている時の方がイキイキしているように見えます。ますますエネルギッシュになりました。

また、受講した他のメンバーも含めて言えるのは、発言が増えたことですね。チーム内でのデベロッパーの発言が増えている印象です。モチベーションが上がったのだろうと思います。

私たちは以前からスクラムを始めていたので、スクラムマスター研修で基本的な知識を得ることで、これまでやってきたことが正しいかどうかの再確認ができるのと、知識や実践方法の理解度や浸透度が上がるので、モチベーションが上がることに繋がっていると思います。

──研修のどんなところがお勧めですか?

海野:「紙飛行機ゲーム」での学びは大きいのでお勧めします。最初にトレーナーからゴールを示されるのですが、従来のマインドセットで進めると上手くいかないことに気付かされます。チームとしての働き方、組織としての働き方を今一度考え直す良い機会になりました。ぜひ体感してもらいたいです。

小林:Scrum Inc.の研修の一番の特徴は、スクラムの祖であるジェフ・サザーランド博士の意志やマインドを聞けることです。博士が空軍のパイロット時代の話や、最初のスクラムが生まれた時の話を聞いて、スクラムが生まれるべくして誕生したと強く実感します。

受講を検討している方へのメッセージ

──どんな方に研修の受講を勧めますか?

海野:自分のチームや組織をもっと良くしたいと思っている方であれば、研修の内容からも、研修に一緒に参加している方からも、必ず何か得られるものがあります。検討している方はぜひ飛び込んでみてほしいです。

小林:スクラムマスター研修で学んだことを実践できれば、必ず仕事が楽しくなります。これだけは確実に言えます。スクラムを始めたばかりだったり、入門として知識を得たい方にお勧めしたいです。

──もし研修を受講していなかったとしたらどうですか?

海野:もし受けていなかったら、今このやり方で良いのだろうかと悩んでいたり、周りでスクラムをこれだけやっていることを知らなかったり、一人で閉塞感を覚えていたと思います。今、小林さんと一緒に組織をアジャイルにする活動をしていますが、その着手のタイミングも遅れていたと思います。

──研修の受講を検討されている方に一言お願いします

小林:スクラムマスター研修の2日間では、一本筋の通っている良質なストーリーを味わえるのと、スクラムは経験主義なので、「紙飛行機ゲーム」や「一円ゲーム」などを通じて体験学習ができるのは貴重です。経験主義の第一歩を踏み出せる機会となる初期投資として捉えてもらいたいです。

プロダクトオーナー研修では、プロダクトオーナーとしての優先順位の考え方や、意思決定のスピードの重要性を学びました。研修で学んだWSJF法やMoSCoWなどの手法は、実務でも使っています。やはりプロダクトオーナーの方やビジネスの意思決定を担っているリーダーの方々に受講をお勧めします。

──日立製作所がスクラムを学ぶ意義は何でしょうか?

小林:日立製作所のような日本の伝統的な企業が、そのなかの一つの組織であってもスクラムを導入できれば、日本のどの会社においてもスクラムができると信じています。国内においてはまだまだスクラムが当たり前になっていないため、私たちが事例になってアクセルを踏むことで、アジャイルを加速させたいと思っています。