アジャイルで進化する三菱電機の製品開発:顧客の声を反映した成功の秘訣

―プロダクトオーナー研修と伴走支援が企画開発を加速―

三菱電機でエンジニアリングツールを開発する部署が直面していたのは、従来型開発プロセスの限界と顧客ニーズの反映不足という課題でした。しかし、顧客視点を中心に据えたアジャイル開発への転換に挑戦した結果、劇的な変化が実現しました。Scrum Inc.の研修と伴走支援を経て、チームは迅速に価値ある製品を企画・開発する働き方を手に入れ、顧客の真のニーズを捉え、成果を上げています。組織的に取り組む新たな挑戦に迫ります。

三菱電機株式会社
エンジニアリングソフトウエア戦略グループ
左:マネージャー 竹内 俊策 様
右:Associate Expert 江口 貴紀 様
(以下、敬称略)
インタビュアー:Scrum Inc. Japan 内山 遼子

ウォーターフォール型から、顧客視点に基づいたアジャイル製品企画開発に舵を切った理由

江口:私はチームのプロダクトオーナーを務めています。シーケンサや表示器といったファクトリーオートメーションのハードウエアを使用するためのエンジニアリングツール(ソフトウエア)を開発することが、部署のミッションです。私たちのチームでは新規事業の開拓をミッションとしています。これまでの事業企画は技術要素を起点とした企画でしたが、今回は顧客課題を起点とした企画にチャレンジしています。

竹内:私はチームのスクラムマスターを務めています。チームは4名で4月に発足しましたが、発足前にScrum Inc. のプロダクトオーナー研修を受講していたため、スムーズに立ち上がりました。製造業における変化のスピードは速くなってきており、その変化に追従するためお客様の役に立つ製品を速くリリースすることが大切です。そのためには顧客価値に重点をおいた製品開発が必要であり、我々は新しい働き方を取り入れたパイロット的な存在として成功事例を作って組織に拡張していきたいと思っています。

──今までのやり方への課題や理想の進め方についてどう思っていましたか?

江口:これまではウォーターフォール型の開発が基本だったため、顧客もしくは社内テスターの声を聴くタイミングが開発終盤になってしまうため、手戻りが大きくなることが課題でした。私はこの課題を解決したいと以前から考えており、最近の製品開発では我流で開発スタイルをアレンジしてみてはいましたが、結局は仕様をつくって、開発して、テストをするというやり方を行わざるを得ず窮屈な思いをしていました。

竹内:三菱電機は製造業としてハードウエアを開発するプロセスが基本になっているため、途中で変更を行うことが困難でした。

──スクラム導入前にどんな工夫をされていたんですか?

江口:私がトライした開発スタイルのアレンジの例としては、お客様ではなく、社内のコンサルティング部隊に開発の途中で製品に触ってもらうということはやっていました。できるだけ小出しでプロトタイプを社内の有識者に触ってもらいフィードバックをもらうようにしていましたが、それでも実際に触ってもらえるプロトタイプが完成するのは半年から一年後でしたので、限界がありました。

Scrum Inc. の研修を受講した理由は、過去の苦い経験にあり

──今後は売れるものを作りたい、顧客のフィードバックを得ながら進めたいという思いが明確になってきた中で、Scrum Inc. の研修(プロダクトオーナー研修)を受講したきっかけは何ですか?

江口:プロダクトオーナー研修を受ける2か月前に、Scrum Inc.さんからの提案で、事業所(名古屋製作所)としてアジャイル・スクラムを理解する合同研修を受けました。すぐに自分たちでスクラムとデザイン思考を取り入れた企画開発をしてみたのですが、例えばユーザーストーリーマッピングでは、エピックにどんな粒度で何を書けば良いのかが分からず、また、書いたものが正しくできているのかどうか自分たちでは判断できませんでした。そのため、 プロから学ばないといけないと思いました。

竹内:私は3、4年前に苦い経験があります。以前の部署でアジャイルを活用した開発に挑戦しようと思っていました。誰もアジャイルを知らない状態で始めたので、このやり方で合っているのか、メリットが出ているのかどうかも分かりませんでした。振り返ると、ウォーターフォールを小刻みにやっている感じになってしまっており、必要なフィードバックをもらえないまま開発が進んでいました。また、品質に対するルールも整備されていないため不安がありました。やはり、知識がないメンバーでやろうとしても、アジャイルで改善できる確信を持てませんでした。スクラムは以前からやってみたかっただけに、今回のような研修があると良いと思っていました。

──2024年1月にプロダクトオーナー研修を受講することになりました。どんなことに期待していましたか?

竹内:三菱電機の製品開発は、顧客の声を聞くが、その声の背景にある顧客の仕事のプロセスや感情に想像を馳せ、顧客の困りごとを引き出すことはなかなかできていないと課題に感じています。顧客の声に耳を傾けながらも、製品企画にどう落とし込んでいくのかを学びたいと思っていました。

江口:研修前は、見よう見まねで一応スクラムマスターが竹内さん、プロダクトオーナーが私という感じでやっていました。でも役割の違いが不明確で、二人で仕事を重複していて線引きができていませんでした。だから、両者の役割の違いについて理解を深めたいと思っていました。

竹内:これまでのリーダーは、一人で製品責任とプロセス責任を両方やっていることが多いですからね。研修を受けたあとの印象ですが、両者を分けるスクラムの考え方があるべき姿だと思いましたね。

認定プロダクトオーナー研修を受講後の具体的な変化とは

江口:学んだあとの感想として、開発者が品質に責任を持つ考え方が非常に良いと思います。やり方・品質に責任をもつという意識が醸成され、自チームの開発者のモチベーションも上がっています。個々のバックログアイテムの受け入れ条件をプロダクトオーナーが共通言語化することに注力し、開発者が品質を担保するというところが気に入っています。

──プロダクトオーナー研修は、貴社の置かれた状況を考慮してカスタマイズしました。1日目にスクラムチームの役割の理解を深め、KDDIの先行事例を聞き、社内のプロセスをどう変えていくかのイメージを持って頂きました。2日目は、プロダクトビジョンからバックログをリファインメント(詳細化)していきました。どんなことが印象に残っていますか?

竹内:知識よりもマインドセットが一番大事だと思いました。マインドの持ち方次第で変わるということです。次に、スクラムのイベントは非常によくできていると思いました。今までやりたいと思っていたけれどできなかった、作業状況や困りごとの共有がデイリースクラムでできるのと、1週間サイクルでふりかえるのが良いです。ウォーターフォールでもプロセスの見直しはしていましたが、数カ月単位でのふりかえりになるので、改善スピードが遅く、効果を感じる前に次の問題が発生するという感じでした。

江口:アジャイルな見積もり方法の一つであるプランニングポーカーや、マルチタスクをしてはいけない理由がきちんと説明され、理解度が非常に高まったと思っています。Scrum Inc. の研修は、スクラムの様々な活動の目的や背景にある理論を教えてくれるので、腹落ちしました。研修中のスプリントレビューのパートの時間には上長にも出席してもらったことで、研修後も毎週のスプリントレビューに必ず出てくれるようになりましたし、おかげで上長とチームの良い関係性ができました。また、研修の中でKDDIでかつてアジャイル開発を一から推進しようとしていた時の生の話を聞けたことで、既存のプロセスとの摩擦をどう乗り越えたのかを知ることができたのも有益でした。

研修後の伴走支援で、顧客志向に基づいた製品企画開発が加速

──研修後、すぐにチーム立ち上げのワークショップをおこない、3ヶ月間伴走支援(コーチング)をさせていただきました。どんな変化がありましたか?

竹内:私たちの実際のビジネスでバックログの管理を伴走してもらえたことで理解が深まりました。より価値が出ることに優先的に取り組むことを徹底できましたし、やらなくて良いことを捨てられたことには大きな意味があったと思います。

──顧客の声を熱心に聞いていらっしゃいましたよね?

江口:多くの顧客にヒヤリングすることで、そんなところにペインポイントがあるのだと、大きな発見がありました。本当の課題を発見できたというのが、収穫だったと思います。スプリントレビューで上長に調査の過程を共有し、対話をしながら進められてきました。ソリューション自体は上位方針として直ぐにやるべきことからは少し離れているけれども、今後のロードマップを具現化し、将来的に行きたいところに繋がるという期待に合意をして始められました。上長がアジャイルに理解を示したことと、上長がコンセンサスを得るべきさらに上の人もアジャイルを理解してくれて、味方してくれていることが大きいと思います。

──働き方や組織風土で変化を感じますか?

竹内:このチーム自体は、変わりたいメンバーが集まったチームなので、上手くいっています。部の他のメンバーも触発されて、少しずつ興味を持ち始めました。

江口:今までだと工数を見積もるだけで一ヶ月掛かっていました。スクラムなら数分で終わる。また、優先順位を付けて、価値があるものだけやる。これまではこれがあったほうが良いのではないかとか、ソフトウェアの作りやすさで順番を決めてしまうこともありました。スクラムでは顧客に価値が高いものから作ったり、お客様やステークホルダー(上長など)からフィードバックをもらって変えられるのが良い。他のメンバーもそう言っています。多くのメンバーは開発計画にしばられて、変えることの工数が高く苦しんでいるのが現実ですが、スクラムのやり方では、部長への依頼で簡単に変えられるようになりました。

江口:部内のメンバーにもアジャイル開発やスクラムの良さを知ってもらいたいので、僕らのチームに関する新聞を作って掲示したりしています。チームビルディングや見積り方法について書いて紹介しているんです。

竹内:意外と違う部のメンバーが読んでくれているんですよ。

部内外向けに掲示した新聞(第2号)
時間で見積らないアジャイルにおける見積もり方法と利点を紹介

──顧客からのフィードバックはいかがですか?

江口:先日、あるお客様にプロトタイプを持っていったら、営業・技術の40名が使ってくれることになりました。最初は、こちらからインタビューばかりして、ゲインポイント(欲しいこと・得たいこと)やペインポイント(嫌なこと、避けたいこと)を聞き出したり、得られた洞察が正しいか追加のヒヤリングをしたりしていたので、怪しい話だと思われていたかもしれません(笑)。しかし、ついにプロトタイプができると、お客様はまさにペインポイントを解消するために欲しかったものだと評価して、本当に嬉しいと言ってくれています。ペインを解消することで、協力してくれた人たちに成果で報いることができて、凄く嬉しい。一つの成功体験となっています。これをきっかけに、社内でスクラムをこれから実践するメンバーが相談に来てくれたり、教えて欲しいとリクエストが来ていて、アドバイスすることが増えました。

──あらためてスクラム研修に戻ります。どんな方に受講を勧めますか?

江口:今のやり方に閉塞感を覚えている方、働き方を変えたいと思っている方ですね。本を読んで独力でやっている方って多いと思います。本当にこれで合っているか不安を感じていたら、ぜひ受けて欲しいです。アジャイル・スクラムは、従来のやり方を全て否定するものではなく、今のやり方に新しい考え方やプロセスを導入することで改善できる気づきを得られます。

竹内:お客さまに喜んでもらえる、本当に価値あるものを作りたいと思っている方に、ぜひ上司の方と一緒に受けるのを検討して欲しいです。また、アジャイル・スクラム開発を導入しようとしているけれども、組織風土などの内部要因でうまくいっておらず、やきもきしている人にもお勧めです。

<記事で触れた当社の研修と伴走支援>
Scrum Inc.認定資格プロダクトオーナー研修
スクラムを活用して事業開発・組織変革などを推進する伴走支援(コーチング)