日本情報通信様は、インフラ・システム基盤の構築、データアナリティクス、EDI、ネットワークセキュリティなど、インフラからアプリまで、大規模SIのサービスを提供している会社で、Scrum Inc. 研修を長く採用頂いています。
そして、開発の現場だけでなくバックオフィスや企画職の方々も、ベテランだけでなく新入社員も、そして社長や役員も研修に参加頂いているのが大きな特徴です。
アジャイル・スクラムを会社の中でどのように活かされているのか?日本情報通信を率いる桜井社長にお伺いしました。
──まず、日本情報通信について教えてください。
1985年にNTTと日本IBMの出資で設立した会社で、2025年には40周年を迎えます。
いわゆる大規模SIのサービスを提供しており、インフラ・システム基盤の構築、データアナリティクス、EDI、ネットワークセキュリティなど、インフラからアプリまで幅広くビジネスを行なっています。
元々は、NTTグループへ日本IBMの商材を使ったビジネスやシステム開発サービスを提供していましたが、現在はIBM製品に限らずGoogleやTresure Dataなど様々な商材を使ってビジネス展開しています。
幅広い業種や規模のお客様にサービス提供しており、お取引先は延べ2,600-2,700社に上ります。
また、ここ4年間では、一般企業だけではなく、自治体のDX推進の支援なども開始しています。
──自治体のDX支援について、具体的にどのようなことをされているのですか?
ご存じの通り、地方では少子高齢化に伴い、住民だけでなく自治体職員も減少傾向にあります。
その一方、自治体の業務は減るわけではないため、如何に効率よく短時間で業務が進められるかが重要になってきています。
当社では、自治体向け生成AI利用対話型アプリ「NICMA for LGWAN」を軸にご支援しています。
SIというと、システムを販売するというイメージが強いですが、我々は自治体の問題を解決するという観点から、DX人材を派遣する形で支援を行っています。
──ソリューション販売ではなくて、DX人材派遣なのですね。
はい、主に50代60代のシニアのメンバーを派遣し、現場にはCIO補佐官やDX推進室長という立場で入ってもらっています。
DX推進の全体計画を立案し首長へ提言したり、時には議会で答弁します。
また、使ってもらえないものを提供しても意味がないので、ワークショップや説明会を通じ、アプリを使える職員を増やしていく活動に力を入れています。
使い方を提案し、実際に使ってもらい、「こういったことにも使えるんだ」と感動してもらうことで、自分たちの仕事のやり方を変えてもらうきっかけになると考えているからです。
コンサルがどんなに綺麗な絵を描いても、結局誰も動かず、物事が進まないケースはよくあります。
上記のような取り組みに加え、職員への啓蒙、意識改革を目的としたハッカソンの企画といった地道な活動を通じて、自治体の職員の方々が自信をつけ、動けるようになることが大切だと考えています。
こうした活動の結果、実際に生成AIで自治体独自情報や議会議事録を学習させ、想定問答作りをしているといった例も出てきています。
現在では15の自治体にDX人材を派遣するまでになっています。(2025年2月現在)
──アジャイル・スクラムの必要性を感じたきっかけは何ですか?
以前いた会社では、営業を統括する立場で、失敗したプロジェクトをたくさん見てきました。
そして、こうしたプロジェクトを見ていると、共通する問題点があることに気づきました。
お客様の要望を聞き理解することが足りておらず、そのまま進めた結果うまくいかない、炎上するパターンが繰り返されていたのです。
お客様の期待と違うものができてしまうのは、多くの場合、初期の段階でのお客様との会話が足りていないことによります。
お客様と十分に会話し、本当に欲しいものを確認し、理解しながら進めていくという最も基本的で最も大切なことを、炎上していたプロジェクトではできていなかったのです。
また、昨今のプロジェクトでは、最初の時点では最終的なゴールを見通せないものも多く、最初はお客様が「それで良い」と言っていても、途中で「これじゃない」と思われてしまうケースも少なくないです。
こういったプロジェクトにおいては、従来型のウォーターフォールのアプローチとは違うやり方が必要だと強く感じました。
そんな中、Jeff Sutherland博士の「スクラム」の本を読んで、深く感銘しました。
また、この本を読む中で、アジャイル・スクラムは、単なるシステム開発の方法論にとどまらず、様々な仕事に適用可能な価値ある方法論だと理解しました。
このアジャイル・スクラムの考え方を社員が学び、実践してもらうため、以前在職した会社でも、日本情報通信でもScrum Inc. Japanに研修をお願いしています。
実は私も研修に参加させてもらいました。
私が参加した回はリモートでしたので、参加するハードルは低かった一方、リアルの集合研修で行うようなワークショップが体験できなかったのは少し残念でした。
機会があれば、リアルでの参加もしてみたいと思います。
──開発メンバーだけでなく、バックオフィスや企画職の方も研修を受けられていますが、その狙いは何ですか?
日本情報通信では、社員の幸せがお客様の幸せに繋がり、ひいてはそれが社会の幸せにつながる、と考えています。
そして、まず最初の入り口である社員の幸せについては、働きやすさと働きがいを高めていくことが大切です。
働きやすさは、会社の就業のルールなどを整備することにより向上を目指しています。
リモートワークについては、利用しやすいよう備品の貸与を進めたり、補助手当を創設し、2024/08時点でも実施率80%を維持しています。
また、会社に出社した時には、社員同士のカジュアルなコミュニケーションが誘発されるよう、本社オフィスにオープンなセミナースペースやカフェコーナーを設置しています。
ビールサーバーなども常設していて、もちろん定時後にはなりますが、出社した社員同士で一杯楽しんでもらったり、お客様とお酒を飲みながら親睦を深めるような使い方をしてもらっています。
一方、働きがいについては、社員がフラットに意見を出し合えたり、社員一人一人が自分で考え判断するような、主体的な働き方から生み出されると考えています。
また、社員一人一人が自分の成長を実感できることも重要です。
このため、日本情報通信では、ベーススキルアップという取り組みを進めています。
これは、わかりやすくいえば、社員のリスキリングです。
社内から有識者を集め、これからの仕事に必要と思われるスキルを13 分野 24 項目洗い出し、それらを社員が自由に選択し学べる仕組みを導入しました。(2025年2月現在)
アジャイル・スクラムは、開発現場だけでなく、バックオフィスや企画業務などでも適用可能だと思います。
また、社員が自律的に考え判断、行動し、主体的な働き方を実現する「会社のOS」となる考え方ですので、このベーススキルの中に含め、社員に学んでもらうことを推奨しています。
ベーススキルアップの取り組み全体では、社員全体で通算1,900資格取得を達成しました。(2025年2月現在)
その中で、Scrum Inc. 認定資格スクラムマスター、プロダクトオーナーなどの資格取得は550件に上り、取得資格のうち、全体の1/3に当たります。
すでに社員全体の30%がアジャイル・スクラムの考え方を身につけていることになります。
──会社全体の様々な職場にアジャイル・スクラムの考え方を身につけた人がいることで、会社の雰囲気が変わったな、と思う点はありますか?
スクラムの用語が社内共通の言語になってきているな、と感じます。
社長として見える範囲にはなりますが、従来の仕事を何も考えずにただ続けるのではなく、もっと良いやり方がないかレトロスペクティブで考えてみよう、改善のアイデアを試してみようという、という社員は増えてきている気がします。
昨年、会社全体の取り組みとして、自分たちの職場の改善活動をコンテスト形式で実施したのですが、非常に多くの改善のアイデアが出ました。
これは経営者として非常に嬉しいことでした。
でも、振り返ってみると、こうした改善活動は日本の会社のお家芸だったんですよね。
日本の多くの会社で廃れてしまったこうした活動が、スクラムを通じて蘇るのには何か感慨を感じます。
──全社で学んだアジャイルやスクラムの考え方を、実際に活用できた事例はありますか?
社内でスクラムを活用して成果をあげている例としては、先ほど自治体向けのDX支援のところでお話ししたアプリの元となった、生成AI利用対話型アプリ「NICMA(ニックマ)」があります。
OpenAIによって「GPT-4」が2023年3月に発表されましたが、このサービスにはインターネットが出てきた時のような興奮、感動を覚えました。
そして、今やってる仕事を一旦置いてでも生成AIをやるべきだと判断し、社内からスキルを持った優秀な人材を集め、1週間でスクラムチームを編成しました。
現場からは、キーマンを連れていかないでくれ、という苦情が出ましたが。
ちなみに、チーム名も生成AIに考えさせ、「GAIA(=GenerAtive Innovative Adventure)」としました。
現在まで40以上のスプリントを回し、リリースとサービス改善を続けています。
ウォーターフォールのような従来の進め方では、「NICMA」をここまで開発できなかったと思います。
ちなみに、スプリントレビューには毎回、私も参加しています。
様々なお客様の意見をベースに、優先順位について意見を伝えています。私の仕事の中でも楽しいもののひとつです。
──社長がいると、チームのメンバーは緊張しませんか?
初めのうちはそうだったかもしれませんが、今はリラックスして仕事をしていると思います。
もちろん、スプリントレビューにおいても、私が言った意見が必ず採用されるわけではないです。
顧客の価値や優先順位について、メンバー全員がフラットに議論ができていると思います。
その他にも、社内で利用しているグループウェアをNotesからGoogle Workspaceに移行させるプロジェクトもスクラムで実施しました。
ただ、これはどちらかというと失敗談で、Notes上の各ワークフローの管理者をPOにしてスクラムのプロセスを回したのですが、各POが自分のワークフローの部分に集中しすぎて近視眼的になり、似通ったワークフローをそのままGoogle Workspace上に移行させてしまいました。
結果、ユーザからスクラムチームへ「似たようなワークフローがそのまま移行され、重複が解消されなかった」というフィードバックが多数寄せられました。
このプロジェクトで顧客の価値を意識して判断するという POの目線が大事だということを実感しました。
──今後、会社として目指される方向性を教えてください。
繰り返しになりますが、社員の幸せがお客様の幸せに繋がり、ひいてはそれが社会の幸せにつながる、と考えているため、引き続き社員の幸せを高める施策を続けて行く前提に変わりはありません。
働きやすさと働きがいを高めていく。
働きがいについては社員が主体的な働き方ができるよう、引き続き社員の学びをサポートしていきます。
一方、新規事業など、新しい取り組みを行う際には、エフェクチュエーション(Effectuation)という考え方で取り組んでいこう、と幹部や社員と話をしています。
何かを始める時に、必要なものを洗い出し、それらを全て集めてから始めるのでは時間がかかりますよね。
そうでなく、既に手元にある資源や能力、知識、人脈等を明確化し、それらを使って何ができるかを考え、できるところから素早く取り組みを始める。
そして、どれくらい利益が得られるのかという算段をしてから始めるのではなく、損失をどこまで許容できるかという観点で、スモールスタートで事業を開始する。
こういってしまうと怒られるかもしれませんが、ROIというものは理想像を描いた絵のようなもので、実際にその通りに行くことはまずないです。
でも、会社の中ではそれを綺麗に描けたものが承認されて、プロジェクトが始まる。実際にプロジェクトがうまくいかなくなった場合でも、誰々が始めたプロジェクトだから、すでに実施が決定されたプロジェクトだから、といって見直しもされず、そのまま続けられてしまう。
こうしたことが起こらないようにするには、許容する損失を超えているかいないかを元に、プロジェクトの成否を判断するのが良いと思います。
そして、プロジェクトを通じて出てきた成果が期待通りではなかったとしても、それを応用したり、別の用途を見出すことで新たなチャンスに繋げればいい。
収穫出来たのが酸っぱいレモンだったなら、レモネードにしてしまえば良いんだと思います。
こういうアプローチによって、今までは市場が小さすぎて誰も参入していないような分野において、新たなビジネスを生み出すことができるのではと考えています。
──非常にアジャイル的な考え方ですね。
そうですね。アジャイルやスクラムが社内のOSとなった会社では、こういうアプローチを自然と受け入れることができると思います。
──社長として、社員や会社の成長をどのようにサポートしていきたいですか?
会社の中にはまだまだ無駄な仕事、無駄なオペレーションが多くあります。
例えば当社では以前、ある社内の申請システムで、社員番号と名前、メールアドレスや上長の名前を入力させるフォームがあったのですが、社員番号を入れれば全てわかることをわざわざ入力させていました。
従来からのルールだから、という理由だけで、です。
このような価値を生まない無駄な労力を社員に強いる仕組みは、極力無くしていきたいです。
また、交通費の精算についても、以前は社員が使った分を申請し、それを口座に支払っていましたが、会社がICカードを貸与し、使った分を後でリーダーにかざして記録を取るかたちに改めました。
社員や経理部門がやっていた余計な作業をだいぶ減らせたと思います。
こういった無駄な作業を減らし、社員が本当にやるべき仕事に集中できるようにしたいです。
社員の働きやすさと働きがいを高め、本来やるべき仕事に集中できるようにする。
そして、エフェクチュエーションのようなアプローチが社内にしっかりと浸透すれば、まだまだ会社を伸ばせると思っています。
──本日はありがとうございました。
通知