Scrum Inc. 研修導入事例:日鉄ソリューションズ様 インタビュー

敢えて草の根、横の繋がりでノウハウを広げ、アジャイル推進役が不要な未来を作る

ー 日鉄ソリューションズ アジャイル実践ワーキングの取り組み

NSSOL 技術本部 システム研究開発センターに所属する2人の研究員は、全社にアジャイルを広め、定着させる任務を負っています。

しかし、彼らはこの本業で行うアジャイル導入支援よりも、業務外で非公式に活動している草の根の「アジャイル実践ワーキング」での取り組みの方が、より重要であると考えています。

なぜそう考えるのか?彼らの活動、目指すゴールから読み解きます。

左側から、技術本部 システム研究開発センター
サービスデザイン研究部 林様、武藤様
聞き手:Scrum Inc. Japan 木代、齋藤
以下、敬称略

社会を円滑に動かすシステムを作り、動かす。それが日鉄ソリューションズの仕事

──まず、NSSOLについて教えてください。

NSSOL 武藤:NSSOLの正式名称は、日鉄ソリューションズ株式会社で、日本製鉄の子会社です。

NSSOLは、製鉄所のシステムを開発していた情報システム部門を母体の一つとして分社化してできた会社ですが、今ではそうしたシステムだけでなく、社会のインフラを支える様々なシステムやソリューションを開発し、提供しています。

現在の親会社向けの売上の構成比はおよそ20%程度で、残りの80%はそれ以外の分野からあげています。

SIJ 木代:元々は製鉄所の制御システムを作られていたのですね。ちなみに今でも新入社員の方は研修で製鉄所に行ったりするのでしょうか?

NSSOL 林:私自身は以前、君津製鉄所付きのシステムセンターで勤務していた経験があります。製鉄所では、社員の希望があれば見学会などを実施していますが、それほど頻繁ではないようです。

NSSOL 武藤:NSSOLの事業範囲は、製造、流通、金融、通信、公共系システム、学術系など、多岐に渡ります。世の中のありとあらゆる場所で、物事を円滑に進めるためのシステムやソリューションが必要とされていますが、私たちはそれらを開発・提供しています。また、システムやソリューションを作って提供するだけでなく、顧客が必要とするものが何かを考え、提案していくコンサルの仕事もしています。

私たちの仕事は世の中のどこにでも存在する、と言えると思います。

SIJ 木代:そういえば、私の息子が通っている大学で、成績を確認したり、学費を払ったりする際にログインするページに、御社のロゴがありました。

NSSOL 武藤:それはCAMPUSSQUAREですね、我が社の大学向けのソリューションパッケージです。
https://www.nssol.nipponsteel.com/solution/popup/campussquare/

表の仕事は、社内のアジャイル・プロジェクトを支援する「研究員」

──会社の中で、お二人はどのような部署に所属していて、どのようなお仕事をされているのですか?

NSSOL 武藤:技術本部のシステム研究開発センターに所属していて、「研究員」という肩書きで仕事をしています。

表向きの仕事としては、アジャイルプロダクトの支援です。コロナ禍に入った頃から、DXや、アジャイルに興味を持つお客様が増えてきました。そういったところに目をつけられることはとても素晴らしいのですが、マネジメント層の思いつきからポッと始まってしまうようなプロジェクトが多く、なぜアジャイルなのか、アジャイルで進める目的が十分に共有されないまま始まってしまうことがよくあります。

また、そういう現場に限ってアジャイルの経験者が少なく、ウォーターフォール型のプロジェクトしかやったことのないメンバーは困惑してしまいます。そのような、「アジャイルにしろって言われたんだけどどうしよう?」と困っている現場の方々に、我々が入って支援しています。

SIJ 齋藤:支援ではどのようなことをなさっているのですか?

NSSOL 武藤:まずは、お客様が考えるアジャイルとは何ですか?という問いから始めます。何のためにアジャイルで進めるのか、その目的を顧客との会話から明らかにしていきます。
次に、自分たちのプロジェクトにアジャイルが適しているかどうかを検討・議論し、適していると判断・理解して頂いた後は、プロジェクトの進め方に対する考え方を変えてもらう働きかけをします。複雑な事柄を扱うプロジェクトでは、初めから完璧なものを作ることはできないので、できるところから始め、自分たちのプロセスを改善させながら、目指すべき方向に少しずつ近づけていきましょう、という漸近的なアプローチに納得してもらうようにしています。

──実際にお二人がご支援に入ったプロジェクトでのエピソードを教えてください。

NSSOL 武藤:ある小売業様のスマホアプリで、在庫管理やお客様からの予約受付などを行うシステムを複数チームで作ったのですが、各チームでリリース日の足並みが揃わなかったり、サービスやプロダクトという単位で全体を見渡した際に、チーム間での連携がうまく行っていなかったプロジェクトがありました。
現場に入ってやりとりを見ていると、それぞれが自分のチームの都合を最優先にしていることが見えてきたので、全チームで共通のゴール作りから始め、何が一番大事なのかを再認識してもらいました。
その上で、各チームの都合を聞き、上席の方に、この中の要素のどれが一番大事かを判断してもらいました。
一番大事と判断された要素を担当するチームの仕事を他のチームが手伝うように改め、その結果、手伝ったチーム単体の進捗が遅れても、全体のリリースが守れれば良い、ということを顧客も含め何度も意識付けをし、広めていきました。

SIJ 齋藤:全体最適が大事だということを理解してもらえたのですね。

NSSOL 林:私の方は、ある製造業様の社内業務で使うシステム改修のプロジェクトです。
お客様にも最終的なゴールが見えておらず、アジャイルなアプローチで進めたいというニーズをお持ちでした。チームは、まず時間をかけ、仕様をしっかりと固めてから進める形アプローチを取ったのですが、これでは実物を見ながらフィードバックを貰い、顧客の望む形にプロダクトを変えていくアジャイルの良さを引き出せず、お客様もプロジェクトの進め方に懐疑的になっていったようです。
そんな中、私は途中から参画し、お客様の信用を取り戻すために、1、2週間の期間でものを見せ続けることを最優先に、チームにやり方を変えてもらいました。アジャイルとは本来、「形にして、こまめにものを見せてフィードバックをもらい、それを反映する」という流れを早いサイクルで回せるものなんだよ、ということをお客様にも、チームにも、理解してもらうためです。
実際、このようなフィードバックサイクルを積み重ね、このプロジェクトは現在も継続しています。

SIJ 齋藤:まさにお二人はアジャイルコーチ、アジャイルプラクティスのお仕事をされているのですね。

敢えて草の根、社内の横の繋がりでノウハウを広げる「アジャイル実践ワーキング」

──お二人は、アジャイルを推進されているワーキンググループを運営されているとお聞きしましたが、具体的にどのようなものですか?

NSSOL 武藤:先ほどお話ししたアジャイルプロダクトの支援は表向きの仕事で、裏ではアジャイル実践ワーキングという名前で、非公認かつ草の根の形で、アジャイルに関しての認知活動をしています。
本業の傍らで、業務での学びや具体的な事例を、全社で共有されているMicrosoft Teamsのチャネルに投稿しています。
この活動は4年ほど前に始めましたが、興味を持ってくれる人たちが徐々にこのチャネルに集まり、現在では投稿やコメントなど、アクティブにやりとりしてくれる人たちが20人弱になりました。

ここに集まるメンバーで、毎週アジャイルに関する書籍の読み合わせや、スクラムのスケーリングの勉強会などをしています。

NSSOL 林:アジャイル実践ワーキングは、このMicrosoft Teamsのチャネルに集う人たちのゆるい横の繋がりです。投稿やコメントなど、アクティブに活動しているメンバーは多くないですが、多くの人がこのチャネルを見るだけ、いわゆるROMをしてます。そして、いつもではないですが、興味を持っていることに対しては個別に問い合わせをくれたり、相談に乗って欲しいなどの依頼が来ます。

アジャイル実践ワーキングのスレッド、誰でも読め、誰でも投稿、コメントができる。

今年の夏には、このワーキング主催で、Scrum Inc. JapanのScrum@Scale研修を実施しましたが、普段は投稿やコメントをしないメンバーがこの研修に参加してくれました。はじめましての方も何名かいたのですが、その人たちはこのMicrosoft Teamsのチャネルをずっと見てくれていたようで、嬉しかったですね。

SIJ 木代:アジャイル実践ワーキングの皆様でScrum@Scaleを学んで頂いたわけですが、そこからどのような学びがありましたか?

NSSOL 武藤:先ほどお話ししたとおり、私たちが支援に入る現場は技術要素やチーム構成がバラバラで、チームが複数ある場合には、その場に適したスケーリング手法を採用するように心がけています。
例えば、2-3チームの比較的小規模なプロジェクトで、1人のPOが各チームにReadyのバックログを示すことが可能な現場ではLeSSの採用を提案しています。方法論ありきではなく、その現場に対して適切な方法を採用することを目指しています。

私がScrum@Scaleを学んでよかったなと思う点、気に入っている点は、スクラムのスケーリングにおいて重要な要素が12個のコンポーネントとして示されていて、現場で必要なものをまず実装していこうという考え方です。
先ほど話をした通り、現場は技術要素やチーム構成がバラバラで、こうすれば必ずうまくいくという方法論があるわけではないです。そういった現場の中で、足りていない要素を見つけ出し、それを実装することから着手していくやり方は、非常に現実的で実践的なアプローチだと思います。

Scrum@Scaleのフレームワーク、適用には12のコンポーネントを現場での優先順位に合わせて実装していくアプローチをとる。

SIJ 木代:アジャイル実践ワーキングを敢えて非公認で行っている理由はなんでしょうか?公式に実施した方が色々と都合が良いのではないかと思うのですが。

NSSOL 武藤:意識して、敢えて非公認でやっています。

公式の立場で、つまり我々の実際の業務の範疇でこのワーキングを推進すると、例えば参加者から依頼を受けた際、それにかかる工数がどれくらいで、社内取引でこれくらいの金額をもらいましょう、みたいな話になってしまい、相談する側のハードルを上げてしまいますよね?

もちろん、重点的に支援するような現場ではそういったやり方が必要になりますが、公式にこのワーキングのような取り組みをすると、ワーキングを運営すること自体が仕事になってしまいます。
例えば、本年度中にワーキングの参加者を何人増やそうとか、勉強会を何回するとか、活動をすることそのものが目標になってしまうのです。

我々としては、そうではなく、自分の気づきをできる範囲で共有し、それが誰かの助けになったり、些細な困りごとなどを草の根で解決できるような場を維持することが大切だと考えているのです。

SIJ 木代:なるほど、確かにそうですね。

──アジャイル推進ワーキングを通じて、社内に起こった変化など、エピソードがあれば教えてください。

NSSOL 武藤:アジャイルの裾野は広がったなーと感じています。

社内のイベントや懇親会で、アジャイルの実践者でなくても、ワーキング活動をウォッチしてくださる方が度々声をかけてくれます。
Teamsには統計機能があって、チャネルを覗いているアクティブユーザー数を確認できるのですが、ワーキングのコアメンバーが数十人であるのに対して、アクティブユーザーは400名以上いるんですよね。それだけROM専で見てくれている人がいる。

話を戻すと声をかけてくれた人が、実はアジャイルを実践していたり、あるいはウォーターフォール開発だけどアジャイルのプラクティスを取り入れてみたり、広い人々の行動に繋がっているなと感じています。

アジャイル推進役が不要になる、アジャイルな未来を目指して

──最後に、今後ワーキングをこうしていきたい、という展望があれば教えてください

NSSOL 林:変化の激しい時代と言われる中、企業もその状況に柔軟に対応できるようになる必要があると思います。
そうした企業になるためには、組織全体で学習し、局所的に集めた知識を広く現場に移転し、現場が解釈、実践することで得られた知見を、再び組織に記憶させるようなフィードバックサイクルを回す必要があると思っています。このワーキングを、そういった組織学習の実践の場にしたい、ちょっと言い過ぎかもしれませんが、組織文化の起点になるような場所にしたい、という思いがあります。

NSSOL 武藤:現状、このアジャイル推進ワーキングは、アジャイルの知識、経験を持った人が集まる場所になりつつありますが、ここで学んだ人が自身の現場でその知識、経験を広げ、各部署にアジャイルができる人が満遍なく居る、という状態を早く作れればと思います。

それには、このワーキングをより活発な場にしていく必要があると思っています。

私がこのMicrosoft Teamsのチャネルに書き始めた際には、誰も見てくれないかも、みたいな感じでしたが、初めて「いいね」のリアクションがついた時には嬉しかったです、見てくれている人がいるんだな、と。

それがすごい後押しになりました。

ですので、このチャネルに自身の体験や事例を書いてくれる人には、今後も全力でいいねしたいと思います。

SIJ 木代:反応とリアクションって、本当に後押しになりますよね、私もSlackとかのコメントにリアクションがついているとうれしくなります。

NSSOL 林:またこのようなワーキングの取り組みは、社内だけでなく社外に広げていきたいです。すでに同じような課題感・問題意識を持つ会社さんとの間で勉強会を始めています。
https://www.nssol.nipponsteel.com/future/stories/ost-001.html

草の根活動が広がって、結果、アジャイル推進役という僕らの表向きの仕事が不要になるのが理想です。社会の課題がアジャイルに解決できるよう、アジャイルを実践するスキルと土壌が至る所で整備されていく、私たちの活動がそんな未来につながると嬉しいなと思います。

SIJ 齋藤、木代:本日はありがとうございました。

※ Microsoft Teams は Microsoft Corporation の商標または登録商標です。