• HOME
  • Blog
  • 持続可能なペースの本質的な意味

Blog

持続可能なペースの本質的な意味

2024.07.29

by Dr. Jeff Sutherland and JJ Sutherland | October 4, 2023 | Blog(翻訳:荒本実)

進化し続けるアジャイル方法論の中で、「持続可能なペース」という言葉は、しばしばバズワードの領域に追いやられてきた。 誤解され、誤用され、時には凡庸さの言い訳として誤用されることさえある。持続可能なペースを取り戻し、再定義し、単なる概念からアジャイルチームや組織の武器としての強力なツールへと高めたい。

2001年、米国ユタ州スノーバードで開催された会議で、ソフトウェア開発の専門家グループが、軽量プロセスの共通言語を見つけるために集まった。 アジャイル・コンソーシアムを形成したリーンなハードウェア企業100社に関する本(訳者追記:『アジャイルな競争相手とバーチャルな組織 – 顧客を豊かにする戦略』)に触発され、「アジャイル」という用語が合意された。

わずか10分のコーヒーブレイクの間に、8人がロッジに残り、アジャイルマニフェストの4つの価値を起草した。 残りの9人がスキー場から戻ると、彼らはその価値観が非常に説得力のあることに気づき、修正なしでそれを受け入れた。 その日の残りの時間は、12の原則の作成に費やされた。 そのひとつが、持続可能なペースという考え方だった。

アジャイル原則の武器化と持続可能なペースの誤った解釈

長年にわたり、アジャイルコミュニティはこれらの原則を歪めてきた。 自己組織化のような概念は、「何でも好きなようにする」という意味に武器化され、整合性と説明責任の欠如につながった。 このような誤った解釈が横行したため、スクラムガイドを改訂しなければならなくなった。 この誤解を正すために、「自己組織化」という用語は「自己管理」に変更された。 同様に、「サーバントリーダーシップ」は「奉仕するリーダー」に言い換えられた。スクラムマスターがチームの「事務員」の活動に留まってしまい、アジャイルチームの58%の失敗を助長していたためである。 現在の「持続可能なペース」の誤用を考えると、スクラムガイドのさらなる更新が緊急に必要であることは明らかだ。

「持続可能なペース」という概念は、大きく誤解されてきた。本来は長期的な生産性とイノベーションを確保するために意図したものであったが、現在では説明責任に対する盾として使われている。 この誤用が、「名ばかりアジャイル」チームの高い失敗率の原因となっている。 このことを考えると、パフォーマンスに対して武器化として利用されることを防ぐために、スクラムガイドの「持続可能なペース」を再検討し、場合によっては改訂の必要性がある。

イギリスの脳科学者であるカール・フリストンが提唱した自由エネルギー原理を参考にすると、予測可能性が高く、驚き(サプライズ)が少ないことが、イノベーションのためのエネルギーを解放することにつながる。 持続可能なペースとは、ゆっくり進むことではなく、燃え尽きることなく継続的にイノベーションを起こせるペースを維持することである。 チームにあまりにも多くの仕事をやり遂げるようにプレッシャーをかけるマネージャーは、脳のエネルギーを消耗させ、イノベーションを不可能にする。

リセットの必要性

今こそ、複雑適応システムの原則に沿ったアジャイルの本質を取り戻すときである。チームは権限委譲をパフォーマンスの結果を示すことによって獲得し、維持されなければならない。「持続可能なペース」は、成果を出さない言い訳であってはならない。 生きているドキュメントであるスクラムガイドは、これらの重要な概念を明確にするために、もう一度適応する必要がある。

2000年代初頭、アジャイルマニフェストは、ソフトウェア開発の乱気流を乗り切るためのフライトマニュアルとして登場した。 スクラムとXPによって10倍のパフォーマンスを達成した先見の明のある人たちによって作られたアジャイルマニフェストは、彼らの集合知の結晶であった。 その指針となる原則の中に、「持続可能なペース」がある。これは、高いパフォーマンスは短距離走ではなくマラソンであるという理解に基づいた概念である。

航空機の世界では、戦闘機は俊敏性とスピードを追求して設計された驚異のエンジニアリングである。 しかし、戦闘機は本質的に不安定であり、航路を維持するために絶えず調整を必要とする。 このことは、超生産的なスクラムチームの歩みを反映している。スクラムチームもまた、本質的に不安定な環境の中で活動し、軌道を維持するために絶えず軌道修正を行っている。

フリストンの理論: 脳の空気力学

フリストンの理論によれば、脳の進化は予測可能性と、予期せぬ驚き(サプライズ)の事態を最小限に抑えることに結びついている。 戦闘機のパイロットは、乱気流の中でコントロールを維持するために、この生来の人間の特性を活用している。 同様に、生産性の高いチームは、ベロシティやバーンダウンチャートのような指標を使用して、高いレベルの予測可能性を達成することで、驚きを最小限に抑え、パフォーマンスを最大化する。

「早く終わらせるチームはより速く加速する」というスクラムパターンは、複数の関連するスクラムパターン(訳者補足:昨日の天気、割り込みバッファ)を使用して持続可能なペースを実現することに基づいている。チームは何ができるかを正確に予測し、計画に対する結果を常に早く提供できる。こうすることで、期待に応えられず、うまくいかない状況を修正するために費やされる無駄なエネルギーというコストを回避することができる。 そのエネルギーは、チームの継続的な改善、イノベーション、加速に使われる。

持続可能なペース:長期的なパフォーマンスの原動力

アジャイルマニフェストに「持続可能なペース」が盛り込まれた当初の意図は、チームが燃え尽きることなく10倍のパフォーマンスを維持できるようにすることだった。 これは、戦闘機のパイロットが長時間の飛行を維持するためにエネルギーを管理するのと同じことである。速度を落とすのではなく、確実に長距離を飛行できるように速度を調整することである。この文脈における持続可能なペースとは、高い予測可能性、予期せぬ驚きの事態を最小限に抑える、絶え間ないイノベーションを意味する。

戦闘機が空を飛ぶためにスピード、俊敏性、コントロールの絶妙なバランスを必要とするように、生産性の高いチームも、プロダクト開発という複雑な状況を切り抜けるために、同じようなバランスを必要とする。どちらも予測可能性を最大化し、驚きを最小化し、進路を維持するために絶え間ない調整を行うという同じ原則に従っている。これが持続可能なペースの本質であり、この原則を理解し、正しく適用することで、チームはパフォーマンスとイノベーションの新たな高みへと押し上げられる。

飛行経路: アジャイルの本来の航路を取り戻す

アジャイルを探求し続ける中で、アジャイルマニフェストの本来の意図は、持続的な卓越性のためのフレームワークを提供することであったことを思い出そう。 戦闘機の航空力学とフリストンの神経科学から学べる教訓に導かれながら、その意図を取り戻すときが来たのだ。持続可能なペースとは妥協ではなく、卓越性へのコミットメントであり、真の意味でのアジャイルであることへのコミットメントなのだ。

「持続可能なペース」という言葉は不適切に使用され、誤解され、しばしばパフォーマンス不足の都合の良い言い訳として使われてきた。今こそ、超越のための武器としての本来の意図を取り戻す時だ。最初のスクラムチームとXPチームは、凡庸さを正当化するためにこの原則を使ったのではなく、10倍のパフォーマンスへの道のりを促進するために使ったのだ。

最後のフロンティア:超越

持続可能なペースを超越のためのツールとして使うことで、組織は凡庸という束縛から解き放たれ、新たな高みへと飛躍することができる。これは夢物語ではなく、効果が実証されている原則と実践を受け入れる意志のある人々にとっては、具体的な現実なのだ。

偉大さを達成するためのツールや知識があるのに、凡庸さに甘んじてはいけない。