【開催レポート】『クネビン マスタークラス(Cynefin Co. Masterclass 2025)』開催!
2025.08.28
2025.08.28
今日の世界はますますVUCA(不安定・不確実・複雑・曖昧)な時代へと突入しています。このような絶えず変化する状況の中で、「状況を見極める力(センスメイキング)」はこれまで以上に重要なスキルとなっています。
こうした背景のもとScrum Inc. Japanは、The Cynefin Companyとの共催により、日本で初となる「Cynefin 2 Day Master Class」を開催しました。本記事では、その学びと体験を振り返ります。
「Cynefin(クネビン)」とはウェールズ語で「居場所」「背景」を意味し、人間の歴史や状況が私たちの意思決定に影響を与えることを示唆しています。フレームワークとしてのCynefinは、課題を次の5つのドメインに分類し、「どういう意思決定やアプローチを取るべきか」を導くツールです。
この「状況に応じた意思決定」という視点が、従来の「一律のベストプラクティス」に依存しないアプローチを導きます。
今回のマスタークラスには、13名の参加者が集まりました。アジャイル実践者に加え、組織変革に携わるコンサルタント、組織開発、意思決定支援に携わる方など、分野も国籍も多様。まさに「複雑性」を体現するメンバー構成でした。講師陣はThe Cynefin Companyから2名が登壇し、さらに創始者のDave Snowden氏との質疑応答も実現。参加者にとって、第一人者と直接対話できる貴重な機会となりました。
<実施内容とハイライト>
2日間のプログラムは、座学と実践演習を組み合わせて進行しました。
【Day1】複雑性とは何か?
システム思考や人間社会における「複雑性」の特徴を学び、Cynefinの各ドメインを実際の事例に当てはめて理解を深めました。特に「Complex(複雑)」と「Complicated(煩雑)」を区別することの難しさが議論を呼び、参加者同士の対話が活発に行われました。
そこで講師のジュールズが紹介したのは「それはマヨネーズかどうか?」という判断方法です。マヨネーズは、卵、油、お酢などからできていますが、それが一度混ぜられてマヨネーズになってしまうと元の卵や油に戻すことはできなくなります。フレームワークの右半分「Complicated(煩雑)」や「Clear(明確)」の領域は秩序あるシステムで、自動車のように多くのパーツが組み合わさっているものの、分解してネジなどの部品に戻すことができるもの、と区別するという考え方です。
この「マヨネーズ」の分かりやすいメタファーは理解を促し、この後、2日間にわたり複雑系の海に飛び込んだ受講者の間で何度もつぶやかれていました。
【Day2】複雑性に取り組む
2日目は「Future Backwards」というワークショップ手法を使い、アジャイルの現在・過去・未来を多角的に描き出しました。理想的なユートピアからディストピアまで、参加者の視点を交えて未来を逆算するプロセスは、意思決定の新しい切り口を示してくれました。
また、SenseMaker®などのツールを用いた実践例も紹介され、「データとストーリーを掛け合わせてパターンを発見する」という実践的アプローチを体感する場となりました。
今回の学びは、アジャイル実践者にとっても大きな示唆を与えました。Cynefinは野中郁次郎氏のSECIモデル(共同化・表出化・連結化・内面化)や「場(Ba)」の概念からも着想を得ています。現場のストーリーを重視するGenbaアプローチもまた、日本におけるアジャイル実践を深化させるヒントとなります。
効率化やスケーリングは右半分(Complicated, Obvious)の領域で機能しますが、イノベーションはComplex領域から生まれます。そこではSafe-to-failな実験が不可欠であり、時間やコストはかかるものの、新しい可能性を切り拓くための唯一の方法です。
さらに、スクラムはComplexとComplicatedの間に位置づけられる実践であることも強調されました。Dave Snowden氏は「スクラムは複雑なものを複雑だが分析可能なもの(Complicated)へと移行させることに優れている」と述べており、スクラムの強みが改めて明確になりました。
<受講者の声>
参加者からは次のような声が寄せられました。
今回の「Cynefin 2 Day Master Class」は、単なる理論学習にとどまらず、自分たちの現実がどれだけ複雑な要素が絡み合っているのかをあらためて実感する場となりました。VUCA時代において、「状況を分類し、それに応じた行動を選択する」スキルは、組織にも個人にも欠かせません。
Cynefinは答えを与えてくれるフレームワークではなく、問いを立て直し、行動の指針を与える羅針盤。今回のマスタークラスを通じて、複雑な問題にアプローチするヒントが体感できたのではないでしょうか。
マスタークラスから得られた学びが、皆様の複雑な課題へのアプローチを再考する羅針盤となることを願っています。
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