AI時代の働き方:改めて問われる「決める力」と「学ぶ力」
2026.05.22
2026.05.22

AIの進化により、私たちの働き方は控え目に言っても、「劇的な変革期」を迎えています。
多くの人が、この現状をキャッチアップし、競合に先んじようと、AIの使い方を学び、仕事での活用方法を模索されているのではないかと思います。しかし、私たちはこのAI導入の流れの中で、近い将来、少なくない組織が「AIを導入したのに、期待したほどの成果が出ない」という状況に見舞われるであろうと予想しています。
自分たちの仕事をより加速させるために、AIの導入以外にも必要なことは?
AI時代の働き方はどう変わるのか?
今回はそんなテーマでブログ記事を書いてみたいと思います。
本題に入る前に、まずはAIによって何が変わったのかを考えてみましょう。
かつては、アイデアを形にするには膨大な時間とリソースが必要でした。
ある会社での、新規事業の企画を行う場面を例にとってみましょう。
以前ならば、数日かけて市場データを集め、分析してグラフにし、さらに1週間かけて重厚な企画書を作り込む……。「着想から最初の形(叩き台)にするまで」に数週間かかるのは当たり前でした。
生成AIが、この「実行プロセス」を爆発的に短くしました。
ある現場では、会議中にAIを使ってその場で構成案を出し、イメージ画像を生成し、簡易的なソースコードまでを出力させています。
かつて2週間かかっていた作業が、わずか15分程度で実現できてしまうのです。
また、AIはこれまで組織の中にあった専門性の垣根も取り払います。
これまでは「分析は専門部署へ」「デザインは外注へ」と依頼を投げ、その結果を受け取るために順番待ちが発生していました。
でも、今では担当者がAIをパートナーに、80%程度の精度でよければ、その場で分析もデザインも完結できてしまいます。

正直に申し上げると、このブログの記事もgeminiとの壁打ちによって作成しています。
どこまでgeminiが吐き出したものを利用しているかは内緒にしておきますが、ともかく、今日の仕事の現場では、AIがかつてないほどの「全ての作業を強力に推し進めるエンジン」となっているのは紛れもない事実だと思います。
さて、AIによってこれだけ作業が高速化されると「意思決定もAIに任せたい」というニーズが生まれてきます。
ただ、現時点では、AIにそこまでの役割を負わせようとする人や組織はほぼないと思います。
その理由の一つ目は、精度は高まってきたものの、AIは時として間違った答えを平然と返してくる点です。
ここは20世紀に想定されていたAI(人工知能)の姿とは大きく違うところです。
SFに出てくるAIは、人間に対して決して嘘はつかないと描かれていました。
いずれにしても、今日のAIにおいて回答が正しいかどうかの確認作業は必須です。
そして、理由の二つ目ですが、AIは提案はしてくれますが、AIにその結果生じた責任をとらせることはできません。
最終的な判断は、引き続き人間が負っていく必要があり、この点はここ数年は変わらないでしょう。
さて、いよいよ本題です。
AIにより現場の作業スピードが劇的に上がるとどのような変化が起こるのでしょうか?
これまで「作るスピードの遅さ」の影に隠れて見えていなかった、別の問題が炙り出されます。
それは、各組織の「意思決定のスピードと質」つまり「決める力」です。
現場の作業がAIで爆発的に加速したとしても、上司の判断や承認で1週間待たされるような旧来の組織では、AIの恩恵を製品開発の短縮化に活かすことができません。
AIを導入したのに、仕事が早くならない、という状況が現れて来るのです。
その理由は、かつて製造業に幅広く取り入れられ、生産性を大幅に押し上げた「制約理論(TOC:Theory of Constraints)」を使って簡素に説明できます。
イスラエルの物理学者のエリヤフ・ゴールドラット博士が提唱した理論で、「全体のパフォーマンスは常にたった一つの制約(ボトルネック)によって決まる」という考え方です。
工場が出荷できる製品の量は、その工場の工程のどこかに存在するボトルネックに制約されます。
もし、工場の梱包の工程にボトルネックがあり、1日に商品を梱包できる量の上限が500個であるならば、他の工程がより生産性が高かったとしても、その工場が1日で生産できる製品は500個以上にはなり得ないのです。
現場の担当者が、仮にAIで今までの1週間分の成果を1時間で作りあげることができたとしても、「承認」に1週間待たされるのならば、顧客に価値を届けるスピードは1秒も速くなりません。
また、現場がAIの力をフル活用し、たくさんの成果を作り上げると、承認待ちの仕事、例えば上司や更にその上の上司の承認、事業部門の承認、従来型のガイドラインに則った品質保証プロセスなどが次々と積み上がっていきます。結果、現場の集中力を削ぎ、管理コストを増大させる大きな「負債」となります。
これは、トヨタ生産方式でいうところの「作りすぎ無駄」で、一番悪い無駄とされています。
まず最初に、従来までの「意思決定のスピード」がボトルネックになり得ます。
また、AIによって膨大に得られるようになったアイデアや仮説、試作品が、プロダクトやサービスに対して膨大な選択肢を提示します。
AIは100個のアイデアを一瞬で示してくれますが、残念ながら、その中から「今の我々がやるべき1個」を選ぶ苦しみまでは肩代わりしてくれません。
むしろ、選択肢が増える分、人間の「選ぶ力」の負荷は増え、その重要性は、以前より高まっているとも言えるでしょう。
多くの選択肢を整理し、何を試し、何を止めるのかを正しく判断する。
これには、早く学び、それを元にやり方を適用させていく力がより求められていくのです。
「早く学び、学んだ内容を元に、スピードだけでなく質の高い意思決定をする」
これがAIによって加速化した作業の中から、多くの価値を生み出すための重要な要素になる、と私たちは考えています。

「早く学び、学んだ内容を元に、スピードだけでなく質の高い意思決定をする」
これを体現する考え方、マインドが「アジャイル」です。
アジャイルは、2001年に著名な17名のソフトウェア開発者により起草された、より柔軟で効率的な開発手法を見つけ出す活動の中で得た価値観をまとめた「アジャイルソフトウェア開発宣言」を元にしています。
元々は、顧客にとってより価値の高いソフトウェアを届けるために、開発者が持つべきマインドを示すものでしたが、現在ではソフトウェア開発に留まらず、より価値の高いプロダクトやサービスを届けるための考え方、マインドとして幅広く支持されています。
このように、アジャイルでは「変化に適応しながら、顧客へより良い価値を提供し続けること」を重視しています。従来のやり方では対応しきれなかった不確実性の高い環境の中でも、チームが協力しながら柔軟に進めていくことが、アジャイルの本質になります。
スクラムの創始者であり、アジャイルソフトウェア開発宣言の共同提唱者の1人である、ジェフ・サザーランド博士の研究と実践を元とする研修は、単なる手法の伝達ではなく、素早い意思決定とそれを元に状況に合わせて機動的に機能するチームを作り上げる手助けになります。
AIというアクセルを手に入れた今、その力をより効率的に使うために、アジャイルという「ハンドル」を手にしませんか?
執筆:木代 圭