株式会社ベネッセコーポレーションでは、難関大学受験に特化したサブスクリプション型学習教材進研ゼミ√Routeを開発・提供しています。この新事業を支えるのが、営業、教材企画、カスタマーサクセス、マーケティング、そしてソフトウェア開発まで、幅広い専門性を持つメンバーが集まった機能横断型のスクラムチームです。
従来の部門ごとに縦割りで進める仕事の進め方から大きく転換し、スピード感と一体感を生み出している同チーム。今回は、その取り組みや変化、今後の展望を、チームメンバーに伺いました。

この記事のポイント
清水(インタビュアー):まず、このチームがどのようにしてできたのか、経緯を教えてください。
佐藤(スクラムマスター):√Routeに関わるメンバーは、以前はそれぞれ別の部門で動いていました。開発、教材、CS、営業、マーケティング……。それぞれが個別のスクラムや部門の中で動いていたのですが、今回の組織編成をきっかけに『必要な専門性を一つに集める』という方針で新しいチームが作られました。結果として、教材の企画や営業戦略を考える人から、ソフトウェアを開発する人までワンチームで日々意思決定ができるようになったんです。

清水:現在はどのようなリズムでスクラムを回しているのですか?
佐藤:1週間スプリントのサイクルです。毎朝デイリースクラムを行い、進捗や課題を洗い出しています。POである永見さんも参加しているので、その場で意思決定ができるのは大きいです。さらに週に2回はマーケティングチームと合同でミーティングを実施し、数値確認や次の打ち手を検討しています。毎週木曜にリリースするので、そこにむけて水曜に最終レビューをして、木曜午前中に本番反映、午後には翌週のプランニングを行う流れです。
清水:週一のリリースを実現しているのですね。リリースのレビューはどのように?
佐藤:レビューでは実際のユーザー体験をなぞるように、広告からログイン、画面遷移までを全員でウォークスルーという形で確認します。『このバナーは見やすいか』『ここで迷わないか』などをチェックし、必要があればその場でメンバーが『バナー修正しましょうか』『マスター更新しましょう』と、手を挙げてくれて即座に修正。数時間後には反映できる。承認プロセスに時間をかける必要がなく、チーム内で合意形成してすぐにリリースできるのが強みです。
清水:このチームでスクラムを始めてみて、メンバーの皆さんの視点から以前の働き方とどんなところが変わりましたか。
―――「現場同士」で直接会話ができる&意思決定のスピードが飛躍的に向上
佐藤博紀(開発):これまでは開発として要件書を作る際も、コンテンツの作成にどれくらい時間がかかるのかというところは予測でスケジュールなどを調整していました。でも今は教材担当や営業担当と日々同じチームで会話ができます。『この仕様ならコンテンツを出しやすい』『こうすると開発が早い』と互いの事情が分かるので、すれ違いがなくなり、とても効率的になりました。
これまで開発の部署と教材の部署でやりとりする際は、現場メンバー同士ではなく課長などを通して行なっていました。それがスクラムチームになったことで現場メンバー同士が直接会話することができて、より現場の課題がお互いに見えやすくなり、すれ違いが減ったという実感があります。

吉田(法務・セキュリティ):私は赤ペン先生を運用する組織にいました。社内のチーム数も多く、その先には1万人の赤ペン先生がいます。そのような大規模事業では、些細な変更をするのにも、様々なシステムが絡み合っていて影響範囲が広く、何ヶ月もかかります。
√Routeでは『まず試す』文化があるんです。決裁者も含めてチームに揃っているので、やってみてから考える。意思決定の速さは以前の比ではありません。
また、チーム内がフラットで若いメンバーも意見をどんどん言ってくれますし、私も以前より意見を言いやすいです。みんなが発言するので喧々諤々な議論になることもありますが、その中でみんなが1週間でリリースするというマインドをもって進めているところも、すごく良いところだと思っています。

庄司(CS):顧客対応の視点でも、これまではお客様への回答に数日かかることもありましたが、今はその場で解決し、すぐユーザーに届けられます。CSだけでなく教材や開発とも横でつながっているから、対応が一気に早くなりました。
高橋(営業・マーケティング):このチームの形になってプロダクトとマーケティングの連携がとてもスムーズになりました。これまではマーケティングの検討をする際に、まずは会議を設定して関係者を集めるだけでも時間がかかっていました。でも今はデイリーやウィークリーのスクラムがある。『次の検討までにここまで進めよう』と計画も立てやすいです。このおかげで、プロダクトとマーケティングが同じリズムで進むから、告知とリリースがずれないのも大きいですね。

―――現場への権限委譲:管理者機能を作りさらにスピードアップ
相澤(教材企画):もう一つ特徴的なのは開発に「管理者機能」を作ってもらったことで、自分たちが直接コンテンツを触ることができるようになったことです。以前は教材を作っても開発に渡してから搭載されるまで時間がかかっていました。でも今は、開発から権限を移譲してもらい、自分たちで画像を投入したり、マスターを本番に反映することもできます。企画を思いついたら、画面を見ながらすぐ試せる。自由度とスピードが一気に高まりました。
清水:開発以外のメンバーが使えるツールを作ったんですか?
佐藤(SM):はい、全力で作りに行ったんです笑。管理者機能が欲しいよねって。よりスピーディにチームでPDCAを回せる環境を作ることで、開発チームと権限委譲の調整をすることができました。
相澤(教材企画):開発の人から見ると、自分たち以外に触られてしまうことに心配があると思うんです。でも、これまでより密にコミュニケーションが取れているからこそ、信頼して権限委譲してもらえたのかなと思っています。

清水:スクラムマスターとして工夫していることは?
佐藤(SM):初めから完璧を求めないというところです。スクラムを正しくやることが目的ではなくチームでどう成果を出すかに注力しました。
例えばスクラムを初めてやってみるメンバーはバックログってどう書けば良いのかわからず事前に準備をするとなると、ハードルが上がってしまいます。なのでSMの私が中心となり、朝会で『今日何をやる?』と聞きながら、タスクをその場で分解してバックログに書き出していきました。全員がいる場所で、時間を取ることになりましたが、特に初期の段階では他の専門性の仕事を知ることに時間を使うことが必要だと思ったんです。
清水:導入時は、どうしても「スクラムをやる」ことに意識が傾きがちですが、本来の目的であるチームとしての成果に注力する、というのは本当に重要でそこができたところが素晴らしいと思います。
佐藤(SM):ありがとうございます。Scrum@Scaleの資格取得時に導入事例のケーススタディで学んだことも役立ちました。
結果的に、マーケや教材の業務プロセスもお互いに理解できるようになり、チーム全体の透明性が高まりました。
清水:では、反対にチームにとって壁はありましたか?
永見(PO):もちろん毎日壁はあります。元々の構想と現場の状況のギャップもあります。でも毎週リリースしながら、そのギャップをどう解消するかを話し合い、チームの意思をまとめていく。これは大変ですが、同時にとても前向きなプロセスです。
佐藤(SM):このチームじゃなきゃできないと思います。『足りないものは足りない』と素直に言える。その上で、じゃあどこから優先して作ろうか、と建設的に結論を出せる。これが持続可能な形でのチャレンジにつながっています。
清水:ありがとうございます。では最後に今後の目標などを教えてください。
高橋(営業・マーケ):各メンバーが専門分野を超えて助け合えるようになることが目標です。スクラムは学びの場でもあるので、自分も領域を広げ、より柔軟に支援できる人材になりたいです。
吉田(法務):少人数でもここまでできることを示せました。このやり方を他のチームにも広げていきたいですね。
相澤(教材企画):自分も保守的だった部分を乗り越え、変化を恐れず挑戦できるようになりました。サービスとしても、人としても変化を受け入れ成長していきたいです。
佐藤(SM):変化に合わせてスピード感をもって変わっていく、少人数で成果を出していくというのは、今後組織としても求められていくところだと思います。もう一つ、スクラムマスターの観点としてはスピード感がプレッシャーになって辛い状態で進めるのではなく、それを自分たちとしても楽しく前向きに働くというところが大切だと思います。それをこのチームではできていて、私自身もスタート時に比べてすごく成長を感じられているので、これをパイロットチームとして広げていきたいと思っています。
永見(PO):小さな実験を積み重ね、それを経営や事業とつなげていくのが私の役割です。リーダー自身が現場から学び、経営に橋渡しをする。これは非常に大きなトレーニング機会でもあると感じています。
