KDDI株式会社(auでんきチーム)

開発期間の半減に成功したauでんきの選択

通常8ヶ月かかる仕事を4ヶ月で終わらせなければならなくなったら、あなたならどうするか?

2倍の人を確保する? 睡眠時間を削って、働く時間を2倍にする? それとも、納期を延ばしてもらうよう交渉をする? あるいは、その仕事を潔く断る?

「auでんき」のチームがこの課題に直面した時、上記のどの選択肢も取らなかった。

2016年4月の電力小売りの自由化に向け、KDDIは電力事業への参入を決断。auでんきチームが他社サービスとの差別化を図るアプリの開発・リリースのために与えられた時間は4ヶ月。それまでに必要とされてきた時間の半分だった。

「熱い想い」を実現する選択

「4ヶ月ほどしか開発にかけられる時間がなかったので、それをやるためには、従来型の開発だと8ヶ月くらいになるのですが、AWS(アマゾンウェブサービス)とアジャイル開発の『スクラム』を導入しまして、4ヶ月ほどで何とか実現しました。」とauでんきアプリ開発チームのリーダー、須田一也氏はいう。

また須田氏によると、この選択により開発からリリースまでの期間が半分になっただけでなく、開発のコストも従来型での当初見積よりも3分の2削減できたという。

「我々としては付加価値をつけるアプリをどうしても間に合わせて、リリースしたいという熱い想いがありました。その想いを実現するために、やはり我々の中で素早く判断して、開発を進めていけるアジャイル開発の手法しかない、ということになりました。」と須田氏は説明する。

KDDIは、2013年から少人数で短い期間における開発・リリースを繰り返していく「アジャイル開発」に取り組んできた。2016年には、「アジャイル開発センター」を社内に設立、現在では開発部門だけではなく、バックオフィス業務にもアジャイルの手法を取り入れているという。

「不安しかなかった」スタート

しかし、巨大なKDDIグループ中において、アジャイル開発はまだまだ多数派ではない。社内のチームでアジャイル開発の手法を使っているのはまだほんの一部に過ぎないと須田氏は言う。

auでんきアプリチームを統括する須田氏自身も、当初は不安だらけだったという。

「当初計画した段階で、従来型の手法では(開発を間に合わせるのが)全く無理だっていうのがわかっていました。しかしアジャイル開発も、我々としては初めてのチャレンジでしたので、このまま本当に収まるのかどうかといったところが、全くもって不安しかなかったというのが正直なところです。」と須田氏は語る。「ただ、やはりアジャイル開発として期間に対してスコープを当てはめていくと、絶対期間を守るためにはそこで作れるものだけを作っていくというところができれば、間に合わせることは理論上できます。それを信じて開発を進めていったという形です。」

不安を乗り越えて、開発期間を半減できた背景には、「優先順位の明確化」「必要最小限の開発」「判断のスピード」などがあったという。

「『スクラム』では通常1週間から4週間のサイクルの中で、少しずつ優先度を決めてものづくりを開発していきますので、それによって必要最小限のその時々に合ったものを開発できる。判断のスピードも早いですし、もの作りのサイクルも、それにあわせて追随するということですね。」と須田氏はいう。

「もう過去へは戻れない」

一方、スクラムを進めていく中で、注意すべき点もあるという。

「スクラムのミーティングに関しては、やはり誰かが一方的に話すようなミーティングのやり方ですとどうしても他のメンバーが受け身になりがちです。各メンバーから意見をできるだけ出すよう、付箋など使って各メンバーから話したいことを考えてきてもらって、それを皆で出し合い、出しあったものに対して議論することを行っています。」と須田氏。

auでんきのスクラムチームは3チームあり、それぞれのチームの名前はau のコマーシャルに合わせて、「桃太郎」「金太郎」「浦島太郎」という抽象化された名前がつけられている。その理由は、各チームが何かの機能に特化した開発を行うのではなく、平行してそれぞれのチームがその時にやるべき作業、やりたい作業を自由に選択しやすくするためだと、須田氏は説明する。

また、開発者と企画担当者が同じ部屋で作業をすることもプラス効果をもたらすという。

「開発者の方も、auでんきのアプリに対しての理解度やビジネス的な効果というところのフィードバックを受け、理解した上で開発を進めていきますので、逆に開発者の方から企画部門に対して、こういう機能があればよりビジネス的な価値があるのではないか、スピードアップに繋がるのではないか、といった提案が出てきたりもしています。」と須田氏は打ち明ける。

そして、そのチームワークとスピードが、チームメンバーの満足感とモチベーションを高め、「ポジティブなループ」をつくっていくという。

「やり方もガラッと変わり、スピード感も非常に早く出て、我々開発している側としての満足度にもつながっていると思います。アジャイル開発で早くサービス機能を届けると、色々なステークホルダーからもいち早く届けた機能に関してのフィードバックが得られます。そのポジティブなフィードバックがどんどん増え、開発メンバーたちもよりポジティブになっていくという、良い意味でのループができていると思っています。」と須田氏は言う。

またスクラムを一度体験すると、もう過去の手法へは戻れないのではないか、とさえ須田氏は感じている。

「スピードアップを図っていくと、自分たちが考えたこと、つくったものというのが速く具現化されていく良いサイクルで回っていきますので、そのサイクルを体験すると、もう過去の手法には戻れなくなるという効果もあると思っています。かなりモチベーション高く開発が進められる手法だと思います。」