インタビューの要点
グロービス・デジタル・プラットフォーム部門では、「学びの未来を創造し、人の可能性を広げる」というミッションのもと、デジタル技術を活用した学びの変革に挑戦しています。グロービス・デジタル・プラットフォーム部門は、2016年に教育のオンライン化の流れを捉え設立されました。主力サービス「GLOBIS 学び放題」は、動画コンテンツをサブスクリプション形式で提供するもので、累計ユーザー数は120万人を超えるまでに成長しています。
部門立ち上げ当初は外部ツールでのサービス展開を試行錯誤していましたが、十分なユーザー体験を提供できない課題に直面し、内製開発体制の構築が急務となりました。末永さんは、この内製開発ができるエンジニアを探している中で、一人目のエンジニアとして入社され、現在は150名のエンジニアを抱えるグロービス・デジタル・プラットフォーム部門でCTOを務めていらっしゃいます。
この前編記事では、グロービス・デジタル・プラットフォーム部門におけるスクラム導入の背景、特に初期段階でどのように進められ、どのような効果があったのかを聞きました。
ー末永さんが管掌されているデジタル・プラットフォーム部門について教えてください
末永:はい、 立ち上げは2016年でした。それまでは法人研修やMBA大学院などが主力事業で、その当時から、教育をオンラインで代替をしていく模索をする中で立ち上がったのがデジタル・プラットフォーム部門です。「GLOBIS 学び放題」はこの構想から生まれた最初のプロダクトです。優れた講師の方の動画コンテンツを撮影し、サブスクリプション形式で幅広く展開をしています。当部門のミッションである「学びの未来を創造し、人の可能性を広げる」の実現に向けて、これからの未来、デジタルを駆使して学びのあり方を変えていく。そこにチャレンジをしている部門です。
ー今では多くのユーザーが利用する「グロービス学び放題」ですが、立ち上げ当初について教えてください
末永:部門におけるスクラム導入は、まず現場の開発チームから小さく始まりました。きっかけは、2018年頃にスクラム経験のある方が開発チームに入社し、スクラム導入の提案があったことです。それまでもウォーターフォール開発ではなく、ウィークリー単位でアウトプット出しながら進めるアジャイルアプローチでしたが、体系的に始めたのは2018年頃だったということです。
グロービスの組織文化は元々、アジャイルと相性が良く、柔軟性やオープンな姿勢が強く根付いており、アジャイルの考え方を受け入れやすい土台はありました。しかし、内製開発やアジャイル開発の具体的な実態については、上層部を含め十分な理解が進んでいませんでした。
この状況を改善するべく、アジャイルやスクラムの理解を深めるために、翌年、部門の経営会議メンバー全員にプロダクトオーナー研修に参加をしてもらいました。研修参加前にも、デジタル組織作りやプロダクト開発に関する読書会などで一定の理解は進めていましたが、実際に体験することの重要性を考慮し、自ら研修に参加しました。
研修後すぐに、参加した役員からは、EAT(Executive Action Team)やEMS(Exective Meta Scrum)といった、Scrum@Scaleで定義されている具体的な取り組みやリーダーのあり方を組織的に始めたいという提案が経営会議であり、そこから組織的なアジャイル導入が進んでいきました。ちょうど同じ時期に、私もScrum@Scale研修に参加し、現場でのアジャイル導入体制構築も同時並行で進みました。
ー当時から、事業成長を見据えた組織運営のあり方を考えていたのですね
そうです。当時、複数のスクラム開発チームが存在していましたが、チームを跨いだ連携や、チーム内の一体感はあっても外部との連携が弱いといった課題を感じていました。そのような状況を打開するために、Scrum@Scaleのような研修を探していたところでした。
現場でのスクラム実践を起点とし、エグゼクティブがスクラム研修を受講することでアジャイルに共感と腹落ちをしたことが、具体的なアクションアイデアにつながり、組織的なアジャイル導入を加速させるきっかけとなりました。
ースクラムの導入後の変化はありましたか?
グロービス・デジタル・プラットフォームにおいてスクラムが導入された後、開発組織には具体的な成果が現れました。中でも、スクラム導入の効果として最も大きく感じられたのは、透明性が上がったことです。
スクラム導入以前、技術的負債が蓄積してプロダクトの維持が困難になったり、開発に時間がかかる理由が不明瞭であったりと、様々な課題がありました。開発速度が遅いという声も上がっていましたが、実際には意思決定の遅れが原因であることが周囲に十分に伝わっておらず、開発状況が見えにくいという印象を持たれていました。
スクラム導入によって開発状況が周囲に「見える化」され、透明性が高まったことは、大きな成果の一つでした。特にデプロイ頻度のような指標を可視化することで、課題が明確になりました。当初は数値があまり高くなかったのですが、数字を取り始めると上がってくんですよね。可視化すると改善ができるなと思いました。結果、チームはぐんぐん成長しました。
さらに、組織としてチーム横断でメトリクスを取り始めました。メトリクスを共有すると、単に数値を見るだけでなく、あるチームで成果が出ると他のチームもそれに影響されて改善が進むという、チーム間の高め合いにもつながりました。実際に、 1 つのチームがメキメキ上げてくれたんです。 1 つのチームがパフォーマンスを上げると横も上がってくんです。「どうしたらそれができるんですか?」という会話が自然と起こるんです。ナレッジシェアや気軽な相談がチームを超えて行えるようになったことは、複数のスクラムチーム連携の意味合いでも非常に大きかったと感じています。
このように、スクラムによる開発状況の透明性向上と、チーム横断でのメトリクス活用を通じた自律的な改善、そしてチーム間のノウハウ共有と連携が、グロービス・デジタル・プラットフォーム部門の開発組織における重要な変化と成果をもたらしました。
ースクラムの研修を検討中の方にアドバイスをお願いできますか?
私も研修を受ける前からスクラム関連の書籍を読んで一定の理解をしたつもりではありましたが、研修の中で体験をしてみることが一番大きいかなと思います。私は開発チームの中でスクラムを実践していたこともありますが、それだけでなく実際に研修の場でスクラムの要素や目的を体験し、他の受講生の方と話をしていくことで理解が深まりました。そこで学んだことを自社に持ち帰って思考錯誤する形が良いと考えています。
また、「守破離」という概念がスクラムの習熟方法にありますが、無理に「守」をしすぎなくてもいいのかなとは思っています。最初からスクラムの全部の要素を入れて始めようとすると、大きな労力がかかってしまうので、プラクティスの中で小さく始め、徐々に理解をしながら導入していく形が良いと考えています。例えばデイリースクラムから始める、振り返り(レトロスペクティブ)から始めるでも、スクラムの効果を実感できると思います。
(つづく)
続編の後編では、スクラムチームが増えていくなか、事業成長とチームの連携を深めていくために選択した組織運営の仕組みに切り込みます。