インタビューの要点
グロービス・デジタル・プラットフォーム(GDP)は、「GLOBIS 学び放題」を中心に成長を続け、現在ではエンジニア150名を超える大規模な部門となりました。プロダクトも「GLOBIS 学び放題」のほか、「ナノ単科」やSaaS型ラーニングマネジメントシステム(GLOPLA LMS)など複数展開しています。グロービスのミッション「学びの未来を作りだし、人の可能性を広げていく」のもと、GDPはデジタル技術を活用しながら学びのあり方そのものを変革することに挑戦しています。
このような大規模かつ多角的な組織において、いかにしてアジリティを維持・向上させていくかという点が重要な課題であり、そこで鍵となるのが、組織全体にスクラムの原則を適用するスケーリングフレームワーク、Scrum@Scale(スクラム・アット・スケール)の考え方です。
この後編記事では、GDPがScrum@Scaleのようなフレームワークをどのように活用し、組織的なアジリティ向上と継続的な学びを実現しているのかを掘り下げていきます。
本記事の前編では、チームでスクラムを導入するまでのプロセスについてご紹介しました。
<前編はこちら>
– グロービスでは、開発や運用にスクラムおよびScrum@Scaleを組織的に活用されているとのことですが、現在の組織体系について教えていただけますでしょうか?
基本的には事業部制をメインとしており、「GLOBIS 学び放題」や海外向けプロダクト「GLOBIS Unlimited」といった学習サービス事業、ナノ単科事業、GLOPLA LMS事業の3つを大きな事業軸としています。それに加えて、横断型の組織として「グロースサクセス」というチームを設け、事業部としての意思決定を迅速に進める体制を構築しています。
– グロービス・デジタル・プラットフォームにおいてScrum@Scaleのようなスケーリングフレームワークへの意識が高まった背景には、どのような課題意識がありましたか?
複数のスクラム開発チームが存在する中で、チームを超えた連携や、チーム内の一体感はあるものの外部との連携が弱いといった課題を感じていました。事業成長を見据え、シングルチームだけでなく組織全体としてどう動くかを考えるために、Scrum@Scaleのような研修を探していました。
GDPにおけるScrum@Scaleの活用事例として、特に効果を実感しているのはメトリクスを用いた可視化とその効果です。Scrum@Scaleのフレームワークではメトリクスが中心的な要素の一つとされていますが、GDPではまずメトリクスとしてデプロイ頻度という指標を取り始めました。ベロシティに比べて客観的な指標でもあるので、数値を意識した改善が進んでいきました。
ある1つのチームがデプロイ頻度をメキメキと上げたことで、他のチームもそれに触発されて向上していくという、チーム間の良い競争とナレッジシェアが生まれていきました。チームごとに指標が異なるベロシティではこういったことが起きにくかったと思います。 このように、可視化によって組織全体として改善が促進されるという効果を実感しています。
自律的なチームに任せていると、アラインメントを取るのが難しいという課題があります。これは『人間の集まり』だからこそ、それぞれのやりたい方向性がコンフリクトすることもあり、共通認識を作っていくことが難しいと感じています。
グロービスの組織文化は「ルールを作らない」「対話重視」が特徴であり、気づくと大枠としては揃っているんだけれども細かな理解がずれていることがあったりもします。
同一事業内のチーム同士は比較的うまく連携できますが、事業を跨いだり、部門再編によって所属が変わったりすると、『部門の壁』を感じることがありますね。
この組織が大きくなる中で避けられない、人間関係と組織構造に起因する課題に対して、Scrum@Scaleをうまく活用していくのがポイントと考えています。
一つは、オープンな情報共有とチームを超えたコミュニケーションの機会を重視していることです。意識的に、各チームの現場で起きている良いことを広くオープンに共有する機会を設けています。
また、GDPでは月1回の全体会を開催しており、これは単なる一方的な情報伝達の場ではありません。参加者同士がワークや対話をする場を設け、チームを超えた繋がりを作ることを重視しています。定期的なランチ会なども、こうした繋がりを促進しています。
このような文化的な土台があるからこそ、他のチームの成功事例を見て、自分たちも連携した方が良いのでは、といった自発的な発案がチームから生まれやすくなっています。
グロービスの文化である「スピード」も、組織のアジリティを支える重要な要素です。コロナ禍において大学院の全科目を数日でオンラインに切り替えた事例や、デプロイ頻度計測を世の中に先駆けて早期に始めたこと、AIのプロダクト機能や開発への組み込みの速さは、そのスピード感を象徴しています。AIのような新しい技術も、Scrum@Scaleのような組織構造の中で、あるチームでの成功事例が横に広がりやすいという利点があります。
ユーザー向けのAI活用機能としては、「学びナビ」のレコメンド機能や、学習後の振り返りコメントへのAIフィードバックなど、既に多数リリースされています。開発においては、AIエージェントや多数のAIコーディングを活用し、開発タスク自体をAIに依頼するといった取り組みも早期に進めています。
Scrum@Scaleを「組織が学ぶフレームワーク」だと考えています。単にミーティングを形式的になぞるだけでなく、横での学びや、良い取り組みを称賛し合い、そしてそれを『徹底的にパクる』という文化を育むことを通じて、組織全体の学びを加速させる力を持っています。
– Scrum@Scaleをこれから導入しようとしている方にアドバイスいただけますでしょうか
Scrum@Scaleを導入する際に最も重要となるのは、「何を実現したいのか」という目的意識を明確に整理することです。単にフレームワークの形式やミーティングをなぞるだけでは意味がなく、ステータスミーティングのような場になってしまいかねない。組織として何を達成したいのか、どのような課題を解決したいのかというゴールを見据え、それに立ち返りながらフレームワークを適切に活用していく姿勢が鍵となると考えています。