インタビューの要点

株式会社プログリットは、「世界で自由に活躍できる人を増やす」をミッションに掲げ、2016年の創業以来、英語コーチングサービスを中心に成長を続けてきた。創業10年目を迎えた現在、同社の事業構造は大きな転換期にある。かつてはコーチング事業が売上の大部分を占めていたが、現在はサブスクリプション型のアプリサービスが売上全体の約4割にまで拡大。プロダクト開発が事業成長の主軸となりつつある。
この変化の中で、共同創業者であり事業統括・人事責任者を務める山碕峻太郎副社長は、ある決断をする。開発の現場で使われる「スクラム」という手法を、経営者である自分自身が一から学ぶことだった。
本記事では、山碕副社長がなぜ自らスクラムを学ぶ必要があると感じたのか、研修で何に衝撃を受けたのか、そしてその学びをどのように経営チーム・開発チームへ展開し、組織に変化をもたらしたのかをお伝えする。
——まず、山碕さんの現在の役割を教えてください。
山碕: 株式会社プログリットの取締役副社長で、共同創業者です。基本的には事業側を統括しており、人事の責任者も務めています。会社の中で、その時々の重要な課題を担当する役割だと認識しています

——創業されて何年になりますか?
山碕: 2016年9月に創業し、今ちょうど10年目です。創業当初から変わっていないことは、ミッションである「世界で自由に活躍できる人を増やす」ことを速く実現するという想いです。また、事業が増えていったとしても、お客様起点で物事を考える姿勢は変わりません。一方で、売上構成比は大きく変わりました。創業時のコーチングだけでなく、現在は約4割がサブスクリプションのアプリ系サービスになっています。
——2025年6月に、お一人で公募型のスクラムマスター研修を受けられたと伺いました。そのきっかけを教えてください。
山碕: 当社がまさに大きな転換点にあり、私自身が知識と経験をアップデートする必要があると感じたからです。これからアプリサービスを伸ばしていくにあたり、売上構成比だけでなく、社員の構成比も変わっていきます。開発の仕組みを自分でも勉強し、開発メンバーと共通の言語で会話ができるようになり、経営としての意思決定ができるようになりたいと考え、申し込みました。
——研修には他にも選択肢がある中で、なぜ「スクラム」の研修を選んだのでしょうか?
山碕: 自分の今までの経験から一番遠い領域だったからです。採用面接でエンジニアやPdM(プロダクトマネージャー)の方が「認定スクラムマスター」などの資格を持っているのを履歴書でよく見ていたので、彼らの言語やノウハウを理解することが、経営として正しい意思決定をするために大事だと思ったんです。
実際に研修に行ってみると、私のようなビジネス側の人は少なくて、エンジニアとかPdM、デザイナーが多かったので、開発に携わる方々ならではのノウハウや使われる言語を理解するうえで、学びが多かったので良かったと思っています。
——実際に研修を受けてみて、どうでしたか?
山碕: 開発の進め方のフレームワークを学ぶことができました。私はそれまで開発のプロセスについては専門外でしたので、2日間で一通り学べたのは大きかったです。また、自分たちは、どこができていて、どこができていないのかがより明確になり、これからどこに注力するべきかが見えてきました。さらに、特に思ったことは、スクラムマスター研修は開発向け、エンジニア向けだと思っていたのですが、スクラムはエンジニアだけでなく、全職種で使えるものだという気づきを得たことです。
——具体的に印象的だったエクササイズなどはありましたか?
山碕: 2つあります。1つは「飛行機ゲーム」です。チームで紙飛行機を作って飛ばすワークなのですが、自分のチーム内では最適化できていても、チームを超えた全体最適が考えられていないという結果になりました。これは経営上の重要な課題そのものだと、ハッとしました。
普段の経営でも、各部門がそれぞれの最適を追求していて、全体としてはうまく噛み合っていないということが起きます。それがゲームという形で目の前に突きつけられた感覚でした。
——もう1つはどのようなものでしたか?
山碕: 「バーンダウンチャート」です。これは本当に衝撃的でした。全員の期待値や現状認識のズレを、一枚のグラフで可視化できるんです。研修が終わった瞬間に「とにかく社内でバーンダウンチャートを作ろう」と言ったほど、僕の中では大きかったですね。
よく「開発が遅い」「もっと早くできないのか」という声が経営側から出ることがあると思います。でもそれは、お互いの期待値や進捗の認識がズレているから起きることなんだと気づいたんです。バーンダウンチャートでそれを可視化すれば、「どこが課題なのか」を感覚ではなく事実ベースで議論できるようになる。これは開発に限った話ではなく、チームで仕事をする上での根本的な課題を解決する手法だと感じました。
——立場の違うメンバーと適切に議論するためには、「透明性」を高めることが非常に重要ですよね。

——研修後、すぐに社内への展開を考えられたそうですね。
山碕: はい、研修の2日目が終わった直後に「社内メンバーに対しての研修も実施したい」と相談しました。経営陣も開発に関わるメンバーも、全員が共通言語を持つべきだと思ったんです。
——なぜ「全員」だったのでしょうか?一部のメンバーだけではなく。
山碕: 経営側がプロセスの詳細を知らないと、結局「もっと早くできるでしょ」としか言えないからです。どこにボトルネックがあるのか、なぜこの順番で進めているのか。それを具体的に理解できて初めて、経営としてまともな意思決定ができるようになると考えました。開発側だけがスクラムを知っていても、経営側が理解していなければ、結局は噛み合わないままです。
私が6月に公募型の研修を受けたあと、8月にScrum Inc.さんに当社に来てもらい、個別にスクラムマスター研修をおこなうことにしました。最終的に20人ほど集まりました。代表の岡田やCFOの谷内も含めた経営陣も参加しています。経営者が「現場の手法を学びに行く」というのは、社内に対しても強いメッセージになったと思います。
——ところで、山碕さんが岡田さんと共同創業された経緯を教えていただけますか?山碕: 創業する前は、リクルートキャリアで営業をしていました。(代表の)岡田とは、入社前の学生時代(2011年)にアメリカに留学に行った時に同じプログラムで出会い、当時は岡田が20歳で私が21歳でしたが、すごく意気投合して、将来一緒に何かできたらいいねという話をしていました。その後岡田はコンサルティングファーム、私は人材の業界に就職しましたが、お互いに信頼し尊敬できる関係が続いており、会社を辞めて一緒に起業するにいたりました。
——さて、スクラムマスター研修には、山碕さんはオブザーバーとして参加しましたが、研修中と研修後、具体的にどのような変化がありましたか?
山碕: 研修中の話からしますと、開発メンバーと他の部署、そして経営陣の団結が目に見えて強まりました。研修のグループ構成を部署と職位をバラバラにした(※1)ので、盛り上がっている様子を横から見ていて「楽しそうだな」と思っていました(笑)エンジニアやデザイナーは経営陣よりもスクラムを知っているので、普段の開発プロセスなども含めて教えたり教わったりするコミュニケーションがあったことも収穫でした。
研修後は、各事業のチーム内で「私がスクラムマスターをやります」と自ら手を挙げるメンバーも出てきました。実際にスクラムマスターという新たな役割を入れてみようという会話が自然と生まれてきたことが大きかったです。
それから、日常の会話が変わりましたね。「それはレトロスペクティブで振り返ろう」「バックログに入れよう」といった言葉が、開発チームだけでなく経営陣の間でも自然に使われるようになったんです。共通言語ができたことで、「何を言っているかわからない」という壁がなくなりました。また、開発チームの中でどこに問題が起きているのかが可視化されて、経営陣も把握しやすくなりました。
経営陣の間でも大きな変化がありました。半年に一度、経営チームとしての動き方そのものを振り返る時間を設けるようになったんです。以前は事業の数字は振り返っても、「自分たちの進め方」を振り返ることはなかった。レトロスペクティブの考え方を経営にも取り入れたことで、仕事の進め方の質が変わりました。
※1 Scrum Inc. Japanの研修・ワークショップでは、グループワークを仮想スクラムチームで進めます。グループの分け方は、お客様の研修の目的と意図を踏まえて設計します。

——共通言語が生まれたことで、開発プロセス自体にも変化はありましたか?
山碕: はい、具体的な仕組みが大きく変わりました。見積もりにストーリーポイントを導入し、スプリントのサイクルを明確に決めるようになったんです。それまではウォーターフォールのような型で進めている部分もあり、進捗が追いづらいところがありました。スクラムのフレームワークに当てはめたことで、「今どこにいるのか」「次に何をするのか」が格段に見えやすくなりました。
——スクラムに対して「自由度が高い」という印象を持つ方もいますが、現場ではどのように感じていますか?
山碕: むしろ逆です。ウォーターフォールよりもスクラムの方が、期限や計画が細かく決まるので、シビアで厳しい仕組みだと感じています。ただ、そのシビアさが悪い方向に作用するのではなく、短いサイクルで区切るからこそ「ここまでに何を達成するか」が明確になり、集中力が上がると感じています。
——定量的な変化は見えていますか?
山碕: 実際に生産性を測るツールでのスコアも上がっており、1人あたりのプルリクエスト数なども向上しています。数字として見えるようになったこと自体が大きいですね。以前は「なんとなく頑張っている」「なんとなく遅い」という感覚の世界でしたが、今は例えば2週間スプリントという決まったペースを刻みながら、事実をベースに会話ができる。これは経営にとっても、開発チームにとっても健全な状態だと思っています。
——今後の展望についてお聞かせください。
山碕: これからは、開発プロセスをさらにブラッシュアップし、より良いものをより早く届ける文化を定着させたいです。スクラムを導入したことで土台はできました。次はその上で、どこまでスピードと質を高められるかが勝負だと思っています。
——特に注力したいテーマはありますか?
山碕: AIの活用は大きなテーマです。開発体制にどうAIを組み込むか、プロダクト自体にどうAIを使っていくか。この2つの軸があります。
AIが活用されるようになれば、エンジニアの生産性はさらに上がります。そうなるとスプリントの期間はもっと短くなり、PO(プロダクトオーナー)の意思決定スピードがますます求められるようになると予測しています。つまり、AIによって開発が速くなればなるほど、ボトルネックは「作る力」ではなく「決める力」に移っていくんです。
——まさに経営の領域ですね。
山碕: そうなんです。だからこそ、経営者がスクラムの考え方を理解しておくことは、AI時代においてさらに重要になると思っています。AIがコードを書く時代になっても、「何を作るか」「何を優先するか」を決めるのは人間です。その意思決定の質とスピードを上げるために、スクラムの考え方は経営者にこそ必要だと、自分の経験を通じて強く感じています。
——最後に、スクラム研修の受講を検討されている経営者やマネジメント層の方に、メッセージをお願いできますか?
山碕: 私自身、研修を受ける前は「スクラムは開発チームのもの」だと思っていました。でも実際に学んでみたら、チームで仕事をする上での根本的な考え方そのものでした。期待値のズレを可視化すること、短いサイクルで振り返って改善すること、全体最適を考えること。これは開発に限らず、経営そのものに必要なことです。
事業モデルが変わるとき、組織のOSも変わらなければいけない。そしてOSを変えるのは、意思決定者である経営者自身です。新しいサービス作りやM&Aも含め、より多くのアプリ・サービスを提供していくために、この体制を整えていくことが非常に重要だと思っています。
アジャイル・スクラムは、一人で本を読んで勉強すれば分かることかもしれないけれど、役職者を含めて多くの人数で受けることに価値があると思います。(受けてもらいたい対象者の)全員で受けたことが良かったです。
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